相変わらず怒涛の更新頻度を見せるSharpCapですが、最新となるSharpCap4.0.8244が10月11日にリリースされています。今回はこの8244でのASI482MCの挙動と、デュアル・ナローバンド・Ha単色光・Ha~近赤外などのフィルターワークを少しおこなってみました。

使用光学系はいつものSP140SS改、14㎝F3.1 シュミットニュートン、架台はAZ-GTiです。
IMG_3805
この日は月齢17、月光カブリはありますが透明度はまずまずで肉眼での限界等級も2等程度、ただしそれなりに風があり、シーイングはかなり悪そうな条件でした。また、観望中の気温低下が28℃→19℃とかなり激しかったのですが、湿度が低く夜露は全くつきませんでした。

NGC253  Gain300 4秒露出 40スタック フィルターなし
NGC253  Gain300 4秒露出 40スタック フィルターなし
なんと、これまで悩まされ続けてきたホットピクセルの軌跡がなくなっています! これはSharpCap4.0
8218から8244への更新での最大の向上
と言えますね!
(ひょっとしてSharpCapの開発の方が翻訳ソフトをかけて日本語で書かれたこの辺境ブログを閲覧している? まさかね 笑)
すごいぞSharpCap!

それはさておき、月カブリの中フィルターなしでもNGC253の姿をそれなりに浮かび上がらせることができました。こういうのを見るとやはり482は感度が高いのかなと思います。星像はシーイングの影響? で少し肥大気味ですね。

さらに南に低い天体では?
NGC1300,1297  Gain300 4秒露出 41スタック フィルターなし
NGC1300,1297  Gain300 4秒露出 41スタック フィルターなし
ちょっと暗い対象になると、なかなかコントラストをつけられないですね。ASI482MCのこれまでの傾向では、そこそこの輝度を持つ天体に関してはかなりの短時間露出でも写るので高感度と言えそうなのですが、ある一定より輝度の低いものがなかなか写りにくいという感じがします(あくまで主観。定量的なデータはないです)。この辺がまだ482を手放しで勧められない部分になりますね。

NGC891  Gain300 4秒露出 90スタック フィルターなし
NGC891  Gain300 4秒露出 90スタック フィルターなし
これは、まずまず。

さて、今までASI482MCの運用はノーフィルターを基本にしていましたが、ここでデュアル・ナローバンドである、QBPフィルターを使ってみます。
NGC891  Gain300 4秒露出 40スタック QBPフィルター
NGC891  Gain300 4秒露出 40スタック QBPフィルター
一挙に暗くなりましたね(笑)。銀河のような連続スペクトル天体にデュアル・ナローバンドフィルターを使うと単純に光をカットしてしまうことになるので仕方ない部分ではあります。さらに背景には露出不足の証”ちりめんノイズ”も現れてきました。

露出を延ばしてみます。
NGC891  Gain300 8秒露出 20スタック QBPフィルター

NGC891  Gain300 16秒露出 3スタック QBPフィルター
NGC891  Gain300 16秒露出 3スタック QBPフィルター
あ、これはダメだ。
ここでNGC891が南中に近くなってAZ-GTiの追尾が不安定になってしまいました。これはVIRTUOSOなどでも起こるGOTO経緯台特有の「天頂付近追尾不安定症候群」ですね(笑)。やむなく対象を変更。Ha、OⅢの輝線を発する超新星残骸でのQBPフィルターの効果を見ます。

M1でまずはフィルターなし
M1  Gain300 4秒露出 30スタック フィルターなし
M1  Gain300 4秒露出 30スタック フィルターなし
QBPフィルターを入れて見ると

M1  Gain300 4秒露出 40スタック QBPフィルター
M1  Gain300 4秒露出 40スタック QBPフィルター
フィラメント構造が少し見えてきたような気がしますが星の数はかなり減少、超新星残骸自体も少し暗くなってしまいます。8秒露出では?

M1  Gain300 8秒露出 30スタック QBPフィルター
M1  Gain300 8秒露出 30スタック QBPフィルター 8秒のダーク
だいぶコントラストが上がりましたが、もう一声! で16秒露出

M1  Gain300 16秒露出 20スタック QBPフィルター
M1  Gain300 16秒露出 20スタック QBPフィルター 16秒のダーク
これで、星の数、星雲のコントラストともにノーフィルター4秒露出と同等くらいになったでしょうか? 乱暴に言うとQBPフィルターの露出倍数は4倍、ということになりそうですね。

このままスタックを続け、中央を強拡大してみます。
M1  Gain300 16秒露出 52スタック QBPフィルター
M1  Gain300 16秒露出 52スタック QBPフィルター 16秒のダーク
まあ、fl=400mmクラスの電視観望でこれだけ構造が見られれば及第点ではあります。

さて、せっかくQBPフィルターを入れたのだから、HⅡ領域はどうか? で、まが玉星雲。
まが玉星雲  Gain300 16秒露出 10スタック QBPフィルター
まが玉星雲  Gain300 16秒露出 10スタック QBPフィルター
あー、薄いなあ・・・どう頑張ってもこれぐらいしか出せません。こういうところなんですよね、ASI482MCをまだ手放しで推奨できないのは。ある程度以下に暗いものが一気に表現できなくなるのですよ。

これが同じ14㎝F3.1を使ったASI294MCなら
まが玉星雲  Gain570(ASI294MC)8秒露出 37スタック QBPフィルター
magatama 8S
8秒露出でもこの程度くらいまでなら炙り出せるのですよね。

(↓10/24追記 スケールと方向を合わせた両画像の比較 左:ASI294MC 右:ASI482MC)
まが玉比較
どういうことが起こっているのかは全くわからないのですが、ASI482MCの信号処理に関してはどっかで低照度部分のデータが飛んでいるような気がしてなりません。
このままだと、暗いものに対する感度では16,500円のPlayer One Ceres-Cにさえも負けてしまうんじゃないか? くらいの懸念さえあります・・・ま、自分ではどうしようもない部分を考えていても仕方ないので気を取り直してオリオン座も昇って来たことだし、M42に行ってみます。

M42  Gain300 8秒露出 40スタック QBPフィルター
M42  Gain300 8秒露出 40スタック QBPフィルター 8秒のダーク
このように輝度の高い対象には悪くないのですよ。ただ先日の記事の時のノーフィルター4秒露出の方が明らかに彩度が豊かで美しいですね。
M42  Gain300 4秒露出 130スタック ノーフィルター
M42  Gain300 4秒露出 130スタック ノーフィルターどう見てもこっちの方がいいです(笑)。やはりM42は素直にノーフィルターで楽しめ、でしょうか?

いっぽう、馬頭星雲では落ち着いた表現を見せてくれました。
馬頭星雲  Gain300 16秒露出 10スタック QBPフィルター
馬頭星雲  Gain300 16秒露出 10スタック QBPフィルター
これは悪くないですね。

さて、ここでHa干渉フィルター(半値幅7nm)を入れ、個人的に少し思い入れのあるHa単色光観望を試してみます。
馬頭星雲  Gain300 16秒露出 17スタック Haフィルター
馬頭星雲  Gain300 16秒露出 17スタック Haフィルター
あー、やはり厳しいか。言うてもカラーCMOSだし、Ha単色光では到底高感度とは言えないですね。こういうのやっぱりモノクロCMOSを使わないとダメだなあ・・・

で、続いてIR640proフィルターを使った、Ha~近赤外観望では?
馬頭星雲  Gain300 8秒露出 20スタック IR640proフィルター
馬頭星雲  Gain300 8秒露出 20スタック IR640proフィルター独特の表現になって、これも嫌いではないです。

実はASI482MCのHa~近赤外電視観望については、すでにykwkさんのブログで展開されているのですが、

SQM18等台の強光害地では非常に有効な方法です。当方のように自宅がSQM20等台の中程度光害地ですとノーフィルター運用を主力にできるのですが、都会在住の多くの方にとってIR640proを使うのが光害を避ける基本セオリーとなるのではないかと思っています。

ただし、赤外を最重視するなら、赤外感度の高いIMX462かIMX464センサーを使ったCMOSの方が適しています(現状ではIMX464センサーのPlayer One Neptune-C IIが最右翼でしょうか)。

IR640proフィルターによる、Ha~近赤外観望ではメローペ周りの反射星雲もほんのり赤くなって面白いと言えば面白いですね。
M45  Gain300 8秒露出 10スタック IR640proフィルター
M45  Gain300 8秒露出 10スタック IR640proフィルター
で、M42で締め。

M42  Gain300 8秒露出 50スタック IR640proフィルター
M42  Gain300 8秒露出 50スタック IR640proフィルター
まあこんな感じです。

さて、だんだんとASI482MCの性質と言うものが浮かび上がって来たわけですが、ある一定の強さを超える光では短時間で表現できる高感度な側面を持っているのですが、低照度の部分では突然反応が鈍くなり、

強きを助け、弱きをくじく「タケちゃんマン」のような性格

とでも言えましょう(笑)

ASI482MCが今後の電視観望界において、ASI294MCを超える真のヒーローとなるには、光が強い時だけ調子に乗ってはしゃぐだけではなくて、弱い光にも手を差し伸べて何とかしてあげる、逆境での強さみたいなものが必要になるのでしょう。

頼むぞASI482MC!

・・・いや、よく考えたらヤツ自身は何もしていない、むしろ頼むべきはSharpCapの開発! か(笑)