ルーペを望遠鏡のアイピースに転用する試みは随分以前(20~30年前?)から行われていたのですが、当時は高価だった2インチアイピースに近い性能を安価に、という志向(あくまで自分の場合)で、わたくし自身もケンコーの置き型ルーペを使っていました。見かけ視界が55度くらいfl=50mmくらいで抜けのよい視野が印象的でしたが、使い勝手や性能の上でも、今一つ市販の2インチアイピースを凌駕するまでには至りませんでした。

そして、安価な2インチアイピースが供給されるようになった今日では、この志向にはあまり意義がなくなっていると言えます。

しかし、先日のDSPでじろーさんがNikon「宝飾用ルーペ」のアイピース転用を提案され、その後Twitterでのやり取りでルーペに詳しい方からベラルーシ製のBelOMOのコストパフォーマンスが高いという情報提供があり、これに呼応しておそらく何人かの方が入手されたとようです。

utoさんもいち早くNikon、続いてBelOMOの10×ルーペを取得され、素晴らしいパフォーマンスの記事を書かれています。

人に影響されやすいわたくしですので(笑)、少し考えた結果、Nikonのはレンズが外しづらいという情報も鑑み「お試し」でBelOMOの方を取得!

以前、微小昆虫の拡大観察用に使っていた、カートンの「DIAMOND TRIPLET10×」とともにアイピース転用を試すことにしました。
ルーペ外観
この2つのルーペともカニ目で簡単にレンズを外すことができます。
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レンズ自体は1群3枚ですね。両方ともルーペ用途ということで、裏表どちらから覗いても使えるように、第1面と4面が同じ曲率のようでしたので、スタインハイル型? ではないかと推測しました。
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さて、それぞれを24.5mmのバレルに入れてアイピースの体裁にしてみます。
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これを5cmF17ハーシェル・ニュートンに取り付け。まずはBelOMO。
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(ハーシェル・ニュートンは完璧な結像を示すのでアイピース単体での性能を見るのに適しているのではないかと思ってテスト鏡筒に使っています)

さて、これで近所の山を見ると・・・

何じゃこりゃあぁ

コントラストがバキバキに強烈で、葉っぱの一枚一枚が見えてくるような解像度と階調。さらにそれらがうねうねと動いており、集合体恐怖症の人とか気持ち悪いのではないかな? と思うほど。今まで割かし高価なアイピースも見せてもらってきましたが、これほどの表現力は経験したことがありません!(ただし世界は広いので、このクラスの表現力を持つ市販アイピースの存在をわたくしが知らないだけの可能性もあり)

↓一応スマートフォンでコリメートしてみましたが、これじゃ全然伝わりませんね(笑)
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唯一の欠点は、見かけ視界が30°ほどと非常に狭いこと。しかし視野内の情報量が凄いので普通の30°よりは広く感じますね。焦点距離は実測32mmほど。5cmF17では27倍になります。

続いてカートンも試しましたが。こちらも見え方はほぼ同じ、素晴らしいコントラストと解像度です。ただこちらは見かけ視界25°焦点距離33mmくらいでしょうか。レンズ径がBelOMOの約21mmに対しカートンは18mmほどで、この径の違いがそのまま見かけ視界に反映している気がします。

別の日に朝昇って来たばかりの月を見たらこんな感じ。
左:カートン                    右:BelOMO
カートンベロモ
上のコリメート画像ではわかりませんが、両ルーペとも、青空の中にもかかわらず、海の部分の諧調が非常に豊かに見えました。

ここで、思いついたのですが、この2つのルーペを重ねたらどうなる? でカートンを眼レンズ、BelOMOを視野レンズとした結果がこれ。
カートン+ベロモ
アイピースのゴミがひどすぎる(笑)
どうやら一番対物に近い第1面にアイピースの焦点があるらしく、レンズの汚れが非常に目立つことになってしまいました。この後クリーニングして大分マシになりましたが、それでもかなり気になります。

見かけ視界は60°、焦点距離20mm程度と非常に素晴らしいスペックになっていただけに、大変残念ではあります。まあ、Lambdaさんの仮説によれば”焦点付近に光学面があると像を乱す”とのことですのでその意味でもよろしくないですね。

というわけで、光学面から距離のあるところに焦点面を置く、をコンセプトに手持ちの小さなアクロマートレンズを物色!
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径20.5mm、fl=60mmくらいのレンズがアイピース筐体に納まりそう。
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このレンズのコバを塗って2群5枚を構築。これをアイピース筐体に入れて近所の鉄塔を見ると・・・
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おお、これだっ!
最周辺に倍率の色収差は出るけど、視野の8割方にわたってほぼフラットでシャープなイメージ!
アイピースの焦点位置は第一面より少し先になりますのでレンズのゴミも見えないです。
見かけ視界46°ほど、焦点距離は24mmくらいですね!

しかし?・・・ちょっと待てよ、シャープでよく見えることは見えるのだけど何かが足りない?
そうだ、あの1群3枚でみたガツーン! というコントラストが影を潜めているではないか?
これじゃ普通の良く見えるアイピースだよ・・・

わたくしのような”眼視ライト層”でもアイピースはそれなりに数が増えており、このレベルの見え味のものならいくらでもあって、わざわざその程度のものをルーペで作る必要はないのです。欲しいのは名だたる高級アイピースを強烈なコントラストで凌駕する「一点突破型」の尖がりまくった奴なのですよね。

というわけで結局、元のBelOMOルーペレンズだけの1群3枚に戻しました。
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相変わらず画像ではわからないのですが、強烈なコントラストと解像力が復活して一安心。

これでもうこのルーペ・アイピースは1群3枚の視野30°で使う覚悟が決まりました(笑)。

まだこのアイピースで夜間の月面や惑星を見てないのですが、とても楽しみです。しかし焦点距離が長いので現状では倍率があまり上げられないのが問題ですね。5倍程度の拡大率を持つ「倍率以外何も足さない」バーローレンズが欲しいのですが、思いつくのこれしかなく(笑)。

数千円のルーペ稼働のためにパワーメイト投入の本末転倒こそアマチュアの醍醐味?(笑)

それはともかく5倍バーローでパワーメイトの他に実用性のあるやつありましたっけね?

いやーしかし、この安価なルーペにて、このところ最大限に遊べております! まだまだいろいろなオプションが考えられるし、こういうお金をかけない「レンズ遊び」みたいなカテゴリーこそ望遠鏡趣味の最大の楽しみのひとつではないでしょうか・・・つくづく、やめられまへんなー!(笑)