2020年の6月にMAKSY60という、6cmF12.5のマクストフ・カセグレン望遠鏡が発売されたとき、わたくしは「これは双眼望遠鏡にするしかない!」と思ったのでした(笑)。

というのも、口径6cmなのでそのまま平行に2個並べれば目幅が出せるな(当方の目幅は65mm)と考えたのです。で、取りあえず1台購入。しかし、現物のMAKSYは鏡筒最大径が84mmくらいあって、そのまま突き合わせたのでは無理なことが判明。結局、良く見える望遠鏡でははあるので単眼でたまに使っていたものの双眼化は「立ち消え」状態。

しかし、翌2021年の8月に「MAKSY GO 60」という名称で小型のドブ架台に載った青鏡筒と赤鏡筒のバリエーションが発売されます。

これを知った時、自分はさらに思ったのでした。「今持ってるMAKSYが青緑鏡筒だから、赤鏡筒と2台合わせればOⅢ色とHa色での双眼望遠鏡が作れるぞ」と(笑)。

しかし、この時点で目幅問題はまだ未解決。構想のみの状態でした。

事が一気に動いたのは2022年5月のDeepStarParty、ここでyagiさんが3Dプリンターを駆使して製作された「SOGAN40」4cm双眼望遠鏡を目にすることになります。
sogan40
この、主要部が全て3Dプリンターで印刷された双眼望遠鏡は衝撃でした。これをきっかけに死蔵していたわたくしの3Dプリンター稼働が始まったと言っても過言ではありません(笑)。

その後yagiさんはさらに6cmの「SOGAN60」を完成され、

以降、Twitterでのやり取りにて当方が表面鏡を提供し、yagiさんがモデリングして3DプリンターでEMSを製作する話に発展。EMSを使うことで光路を中央寄せにシフトし、さらに正立・90°対空と双眼望遠鏡に最適な仕様とすることができます。

そしてyagiさんは3ヶ月にもわたる、オリジナル構造のEMSのモデリングと3D印刷の試行錯誤を経て、ついにMAKSY用のEMSを完成されました。
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これがそれです。24.5mmバレルに31.4mmアイピーススリーブのMAKSY専用EMSは唯一無二のスペックかと思います。何よりカッコいいですよね!

双眼化に向け新たに用意した赤鏡筒(これも提供してくださる方がいらっしゃいました。改めまして感謝です)と、もともと持っていた青緑鏡筒を合わせて見ます。
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当然、MAKSYの特徴である鏡筒の「フタ」を入れ替え、Haの赤OⅢの青緑での「デュアル・ナローバンド・カラー」を強調!(笑)ここまで来れば双眼望遠鏡は7割がた完成、と言っても良いでしょう。

目幅調整用として、HAKUBAのスライド装置(三脚の上でカメラを横スライドする用途のもの?)
hakuba
を使います。だいたい50~80mmの目幅に対応できそう。これをホームセンターで買ってきたL字金具とアリ型を介してZERO経緯台に搭載すれば、取りあえず双眼望遠鏡としての形になりました。
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ちなみに、このZERO経緯台はレリーフの「零」ロゴがついた「松本零士仕様」です。
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・・・というのはウソで、自分で勝手に3Dプリントして貼り付けてるだけです。すみません(笑)

ただし、この状態では鏡筒を並行にするために押しネジで向きを調整して左右の像合わせをしているので、相当やりにくいです(笑)
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さらにL字金具もモーメントが大きくて振動が収まりにくい「ビヨヨヨーン」状態(笑)。
取りあえず見え方を確かめるための試作仕様、Ver0.0となります。

しかし、これで見た地上の風景は高いコントラストと強烈な立体感でインパクトがもの凄いです。
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こういうのが見られると製作へのモチベーションが一気に上がりますね!

というわけで、ビヨヨヨーン状態の解消のため、3Dプリンターで「スタビライザー」を印刷。
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これをL字金具に当てます。
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これで振動収束は完璧、ビヨヨヨーンはほとんどなくなりました。剛性の高い金属と、振動収束性に優れるプラスチックや木材の組み合わせはなかなかいいと思います。

さらに、筒先の3点押しネジで左右の像合わせをする機構も追加。
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この機構をホールドするステーも3Dプリンターで印刷したものになります。
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おかげ様で、このように現物にアジャストするパーツのモデリングは何とか出来るようになり、望遠鏡自作の自由度がだいぶ上がった感じがしますね。yagiさん製作のEMS部分も合わせると、構造のかなりの部分を3Dプリンターで印刷した双眼望遠鏡、と言えます。

ともあれ、これにて双眼望遠鏡として成立する最低限の機能を搭載することができました。

MAKSY双眼Ver1.0の完成

と申し上げてよろしいでしょう。

もちろん早速実戦投入しております!
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やはり双眼望遠鏡には「高さの変えられるイス」が必須!

うーむ、「MAKSY GO 60」の正立ファインダーを流用してるのですが、直視なので覗きにくいですね。これは近日中に正立90°対空タイプに換えないとな・・・

と言うわけで、まずはPL4mm188倍で月面。一見してビックリするコントラストと解像度です。まさにMAKSYのシャープな光学系に目をつけて双眼化した甲斐がありました。
山脈はザラザラだし、点みたいな細かいクレーター無数にあるし、海の部分の濃淡が階調持ってるし、多重構造になってるクレーター次々と見つかるし、ものすごい情報量! 一応、不明瞭ですがiPhoneのコリメート画像貼っておきます。
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次、土星に移ります。
月面は光量があるので188倍OKだったのですが、この日は少し薄雲っていたので、土星は188倍だと暗くなって厳しいですね。125倍なら何とか見られました。「カッシニ」「輪に落ちた本体の影」「本体縞模様黄色く、極方面灰色」の3点セットはなんなくゲット!

木星も薄曇りの影響を受け188倍だとのっぺりと白い円盤。125倍なら模様がかなり見えてきますが、コントラストは悪いですね。しかしガリレオ衛星が全部ジフラクションリング見えます。
ふと思い立って別の恒星を見たらエアリーディスクとジフラクションリングが明瞭に。当たり前か(笑)

久しぶりに双眼望遠鏡の素晴らしさを堪能いたしました。

双眼望遠鏡のメリットとしては

1 視認性の向上(「見えるか見えないか」のレベルが単眼より楽に確認)
2 連続観測の疲労が少ない
3 疑似立体感の演出
4 視野内情報量の増加により惑星などの対象が大きく感じられる

などがあると思うのですが、とにかく見てて飽きないです。

反面、デメリットに

1 コスト・重量とも同口径単眼の倍以上となる
2 各種たわみによる左右の視軸ズレを防ぐため各部の構造にかなりの剛性が必要になる
3 客観的に左右の像を一致させる調整に慣れが必要
4 双眼視自体の不得意や、双眼によって視認性が向上しない個性もあり万人向けとは言い切れない

などがありますが、とりあえずMAKSY双眼のような小型の双眼望遠鏡だと少なくとも1のデメリットは少なくできると考えています。小口径であっても双眼望遠鏡独特のワクワク感とか感動は色あせることがないですね!

ちなみに、このMAKSY双眼は「高倍率で月・惑星を見る用」です。個人的にRFT的な小型双眼はコスモキッズ双眼

がありますので、用途的にはこれと相補的な関係になりますね。

まあ、高倍率とは言っても今のところカートンOr6mm-A、125倍あたりが常用かとも。さらなる高倍率の可能性も含め、いろいろなアイピースを試して行きたいところですね。
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しかし、しばらく双眼望遠鏡をやってなかったので、2個ずつあるアイピースがあんまりないんですよね。この分ではかつて満喫した「同じアイピースを2個ずつ買わないといけない地獄」が復活か!?(笑)

さて、このMAKSY双眼、来たる11月11-13の「星フェス2022」に持ち込み予定です。よろしければ覗いてみてやってください!