超新星残骸や惑星状星雲HⅡ領域などの「輝線星雲」は、Hα・Hβ・OⅢ・SⅡなどの輝線を発しており、これが天体写真や電視観望では鮮やかな色彩として表現されます。
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しかし、これらの星雲は暗いので眼視では視細胞のうち感度の高い桿体細胞のみを使うことになり、その感色性の特徴からHαの鮮やかな赤は見ることができません。眼視で比較的よく見えるのはOⅢやHβの輝線を発している対象となります。

たとえばこのM27亜鈴状星雲です。
m27 8s gain300 56stack  qbp filter
上の画像にはHαの赤も写っていますが、眼視ではOⅢ・Hβの緑の部分の形状のみを見ることになり、写真とは少し形が違って見えます。

M27のような輝度の高い対象ですと、ノーフィルターでもそれなりに見応えがあるのですが、OⅢフィルターやUHC(OⅢとHβの両方を通す)を使用することでさらにコントラストを上げ、もっと細かい部分を観察することもできます。特にその影響が顕著なのが網状星雲です。
ami 8s 43stack
空の暗いところですとノーフィルターでも見えるのですが、OⅢやUHCフィルターを使うことで、上の画像の緑色の部分限定ではありますが「網状」の名にふさわしいきめ細かな構造を見ることができます。

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題。

こういった星雲は空の暗いところで見るのがセオリーなので、光害地(SQM20くらい)の自宅ではほとんど見たことがありませんでした。ひょっとしてフィルター使用で網状星雲の一番濃いところくらいは見えるのではないかと今更ながらに思いついたものです。さらに、もし見えるようならQuadBPフィルターのようなデュアル・ナローバンドフィルターが眼視用フィルターとして使用できるか、も検証します

鏡筒は30㎝F5自作ドブソニアン、
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北軽井沢観測所RPL25mmで60倍、実視界1°を得ます。
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フィルターは5種類。
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後列左からカサイ・OⅢフィルター
カサイ・スーパーネビュラフィルター。これはUHC同等品と思われます(下のグラフはUHCフィルターのもの)
ただし、以前ルミコンのUHCと比較したところそれよりはコントラストが劣りました。

前列左からサイトロン・QuadBPフィルター
qbpf_g
同・CometBPフィルター
CBP
SVBONY・CLSフィルター
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の5種類です。後列の2インチは眼視用、前列の1.25インチは普段は電視観望に使っているものです(ちなみに上にあるM27と網状星雲の電視観望画像にはQuadBPフィルターを使用しています)。

前列・電視観望用の3つははいずれもHαの周波数を通すのですが、この帯域では目の桿体細胞の感度がないので、眼視用としては実質UHC+αぐらいの特性として考えられると思います。

当日は雲が多いのですが透明度はまずまず、月齢4.2、肉眼での限界等級は2等程度でしょうか。

まずはM27。それぞれのフィルターでの印象

ノーフィルター 一応ボヤッとした感じに存在は分かる

SVBONY CLS ノーフィルターよりはバックグラウンドは暗くなるがM27も存在が検出できるのみ。形はわからない

CometBP CLSとあまり変わらない。わずかにコントラストが向上している? くらい

QuadBP 一気にコントラストが増し、M27が両替屋マークに見え始める。
両替屋
カサイ・スーパーネビュラ
 QuadBPとほぼ同じだが、わずかにコントラストが向上?

カサイ・OⅢ スーパーネビュラよりさらに一段階コントラストが向上。M27の形が一番よくわかる。

この後、網状星雲も見たのですが、一番コントラストの高いOⅢでも見えず。さすがに光害地じゃねー、という結果。これは残念でした。

で、例によって(笑)、雲が拡がって来たので終了!
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と言うわけで、予想通りOⅢフィルターが一番よかったものの、本来は眼視用途ではないQuadBPがかなり健闘しました。面白いのは、電視観望ではQuadBPとほぼ同じ感覚で使えるCometBPが眼視ではコントラストが今一つだった点です。CometBPの特徴である青色成分の透過が眼視ではコントラストを下げてしまうのでしょうか?

常々、電視観望で1枚だけフィルターを買うなら、まずはQuadBPフィルターを、と主張しているのですが、その主張に思わぬ根拠と言うかボーナスが着いた感じですね。専門の眼視用フィルターにはわずかに及びませんが、十分に輝線星雲の観望用途に耐える特性を持っているように思われます。ひょっとしたら空の良いところでは網状星雲も見えるのではないでしょうか?

もともと電視観望用途でも相当な汎用性がありますが、

さらに眼視用途にも守備範囲を拡げてきた感じです。

それにしても、つくづくQuadBPフィルターは底を見せないですね!