ズームアイピース・・・一本で様々な倍率が得られるのでアイピース差し替えの必要がなく、さらに連続的な変倍が可能なので、光学系・天体ごとの最適倍率が探りやすいので非常に利用価値の高いものです。

しかし、従来のズームアイピースは、像質悪い、視野狭い、ズーミングによるピント移動が大きい、と三拍子そろった低スペックのものしかなく、長らくわたくしを含めた眼視派の選択肢から外れていました。ここ15年くらいでしょうか、どうも単焦点アイピースに劣らないズームがあるらしいぞ、という話をチラチラ聞くようになりましたが、個人的にはほとんど覗いてみる機会がありませんでした。

そんな状況のわたくしでしたが、2022年のDSPでミラクルKさんに見せてもらったライカ・ズームは上にあげたズームアイピース本来の目的を完璧に達成するパフォーマンスを持っていました。
ただし、ライカズームは国内販売店での実売価格13万(実際にはさらに望遠鏡用アダプターも必要)と高価なので、とても一般的なアイテムとは言えません。DSP以降、もう少し安くてズーム観望を楽しめる、プアマンズ・ライカズーム的なアイピースがあればいいな、とずっと考えていました。

しかし、プアマンズ・ライカズームを探すったって、「標準区」を持ってないと評価のしようがありません。やむを得ず(笑)本体を取得する運びになりました。
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これ、Lambdaさんが提唱されている「コスパを求めて散財する」ってやつですよね(笑)

ま、それはともかく、今回ライカズーム(8.9-17.8㎜)に立ち向かうのはSVBONYの7-21㎜セレストロンの7-21㎜です。両方とも実売価格は6千円程度でズームとしては最安クラスですね。
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まず大きさからして違いますが、重量的にもライカズーム475g、SVBONY135g、セレストロン155gと差があります。

以下、各アイピースを15㎝F8に取り付け、地上風景にて見え味を確かめます。
(完全に個人の主観で評価していますので、各アイピースの客観的な性能をあらわしておりません。その点をご理解いただいたうえでお読みください)
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まずはライカズームから。
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左:17.8㎜側 67倍 60° 実視界0.9°       右:8.9㎜側 135倍 80° 実視界0.6° 

さすがのコントラストとシャープネス! 低倍率側を「10」としますと高倍率側ではコントラスト・シャープネスともわずかに落ちますが「9」くらいは行ってます。また、ズーミングで倍率を上げていくと、解像度が落ちないまま見かけ視界80°に拡がっていくので非常に「没入感」があり、これぞズームアイピースの醍醐味! と言えると思います。

その醍醐味の演出にもっとも貢献しているのが、ズーミングによるピント移動の少なさです。ノギスでドローチューブの繰り出し量を計測したところ、
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低倍率側と高倍率側でのピント移動はわずか0.1㎜! もちろん微妙とは言えピント移動はわかるレベルですので合わせなおすことにはなりますが、それほど気になりません。目のピント調節範囲が広い若い人ならひょっとして気づかないかも?

続いてSVBONY7-21㎜。
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左:21㎜側 57倍 40° 実視界0.9°       右:7㎜側 171倍 57° 実視界0.6° 

一気に見かけ視界が狭くなってライカと比べると情報量が激減する感じですね。しかし低倍率側は悪くないです。ライカズーム(低倍率側)を「10」としても、コントラスト「10」、シャープネス「10」、視野が狭い以外はほとんど遜色ありません。しかし高倍率側では、コントラスト「8」、シャープネス「8」ぐらいに劣化します。ピント移動も0.55㎜くらいあるので、明らかにピントがボケる感じでズームの没入感は感じられないですね。まあ、ライカが「2倍ズーム」なのに対し「3倍ズーム」なので少し割り引いて考えないといけないかも。

セレストロン7-21㎜。
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左:21㎜側 57倍 30° 実視界0.5°       右:7㎜側 171倍 46° 実視界0.3°

一見して、「狭!」低倍率側の見かけ視界30°はルーペアイピース並みですが、像は悪くないです。コントラスト「9」、シャープネス「9」くらい。しかし高倍率側はいけません。中心部がかろうじてピント合うけどちょっと中心外れるとピント位置がわからない、ぐらいに良像範囲が狭く上のコリメート画像でも倍率の色収差がわかりますね。正直、使えないレベルですが無理に評価するとシャープネス「4」、くらいでしょうか。ピント移動量も0.75㎜と大きいです。しかしコントラストは意外に悪くなく「8」ぐらいはいけそう。

以上を一覧表にすると
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こんな感じでしょうかね。

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今回、SVBONYとセレストロンとっては相手が悪すぎる酷な比較になってしまいました(笑)
しかし、これにより自分なりのプアマンズ・ライカズームの定義がはっきりした気がします。列記してみると

1 ピント移動が少ないことが最優先。ライカズーム並みの0.1㎜レベルには押さえたい

2 高倍率側で画質劣化しないこと、そうでないとズームアップで細部が見えてくる感じがしない

3 1・2が満足されていれば見かけ視界はそれほど広くなくてもいい(40-60°レベルなら可)

4 拡大率は3倍なくても2倍でよい


て感じでしょうか。ライカズームでは1・2に加え広視界を実現するためにコストがかかり高価格になっている、とも言えますね。このうち広視界を捨てることで何とかコストダウンした製品が今後出ないだろうか、というのが勝手な希望です。

SVBONYではこのところズームアイピースのラインナップが非常に豊富になっています。

今回検証したのは一番安いクラスですので、もう一つ上の1万円くらいのものはもっと高性能の可能性もありますね。

さらに、3-8㎜なので用途が限られますが

これなんかは既に良い評判が聞こえて来つつあります。

セレストロンの7-21㎜はまさに「昔のズームアイピース」の印象そのままでした。これとSVBONYの7-21㎜はほぼ同じ価格なので、セレストロンを買う意味はあまりない、という現状でしょうか。そう考えるとSVBONY7-21㎜は相当コストパフォーマンスが高く、観望会等で不特定多数に使ってもらう時などのアイピースとして最適、と言えるかもしれません。30㎝F5につけると月面はかなり良く見えました。


しかしセレストロンにはもうちょっと高価格帯のもあって

ひょっとしたら、こちらはもっと高性能かもしれません。

ライカ・ズームに準ずる性能の高価格帯にはスワロフスキーやコーワなどがあり、これらも素晴らしいそうですが、3万円台の「中間価格帯」も気になりますね。

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