はい、今回の企画は、電視観望における最も汎用性の高いフィルターに「最強」の称号を自分勝手に与えようというものです。

電視観望における「汎用性の高さ」とは、HⅡ領域・惑星状星雲・超新星残骸の「輝線スペクトル・グループ」と、小宇宙(系外銀河)・反射星雲・散開星団・球状星団の「連続スペクトル・グループ」の両方で優れたコントラストを示すことと定義とします。

もちろん電視観望においても「暗い空のもとでのノーフィルター」が各天体の最高の姿を見せてくれるのは間違いないのですが、電視観望を光害地の自宅で運用すると決心した瞬間に、「見えるも見えないもフィルター次第」という、たいへんフィルター依存度の高い状況になります。
そのため、対象によって最適フィルターに差し替える必要が生じるのですが、個人的に電視観望最大のメリットを時短と位置付けているため、「北アメリカを見てたけど、次M31ね」って時にフィルター交換にモタモタするのがどうにも許容できません。

それなら、フィルター・ターレットを、とも思ったのですが、フィルターによって厚みが微妙に違うので結局ピントを合わせ直さないといけないので同じです。それで、フィルターを差し替えることなく、一枚で「輝線もの」と「連続もの」の両方に使えるフィルターを求めていたのですが、今のところ、サイトロンのQuad Band PassフィルターとSVBONYのCLS光害カットフィルターがそれに近い感じです。

ここで、現状自分の手元にある3種の光害カットフィルターと3種のデユアル・ナローバンドフィルターを使って、「輝線もの」の代表としてHⅡ領域、「連続もの」の代表として小宇宙(系外銀河)の見え方を比較し、周波数特性グラフとの関連性を見て、電視観望における最適フィルターを改めて見直そうという計画です。

使う予定のフィルターとその税込み価格です。
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上の3つが光害カットフィルター、「light pollution」1780円、「SVBONY CLS」3890円、「ASTORO LPR type1」13410円
下の3つがデュアル・ナローバンド、「サイトロンQuad Band pass」10780円、「ZWO Duo-Band」23400円、「STC ASTORO-DUO Narrowband」60280円 となります。

ごらんのように、31.7mmと48mmが混在していますが、31.7mmはASI294MCのドーナツ状金具に取り付け
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48mmはCanonEFマウント→T2アダプター内に取り付けます。
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とりあえず、フィルターとセンサーの距離による違いは強引に(笑)考えないこととします。

ごらんのように、SP140SS改14㎝合成F3.1鏡筒を使う予定です(赤外域も利用するので鏡筒は反射である必要あり)

それぞれのフィルターを、帯域が広い→狭い の順で紹介します。

①「light pollution」
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光害のもととなるHgの輝線等をカットするべく特性がギザギザになっています。通過する光が多いので、もっとも連続スペクトルものには有利と思われますが、コントラストとの兼ね合いでどうなるかというところです。赤外域を通すので、この点でも連続スペクトルには有利と思われます。ちなみに一番価格の安いフィルターでもあります。

②「SVBONY CLS」
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バンドの広いデュアル・ナローバンドのような特性です。また、このグラフには700nmまでの特性しか示されてないのですが、おそらく赤外域を通します(少なくとも、950nmくらい?のテレビの赤外線リモコンは通しました)。①の「light pollution」よりカットする帯域が広いので、コントラスト向上には有利と思われます。さらに赤外のプラスアルファも追加されて小宇宙(系外銀河)の視認性の向上にはすでに実績のあるフィルターです。

③「ASTORO LPR type1」
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バンドの広いデュアル・ナローバンド的な特性に430nm(色としては青)あたりのピークが追加されています。そのため星の色が豊かになるかなと期待したのですが、その辺はわりとおとなしいものでした。また、これは赤外域を通さないので「連続スペクトルもの」にはやや不利になります。1100nm以降に少しピークらしいものがありますが、さすがにこの周波数ではCMOSカメラの感度がないので、関係なし。ちなみにテレビの赤外線リモコン(950nm?)は通しませんでした。

続いて、デュアル・ナローバンド

④「サイトロンQuad Band pass」
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すでに小宇宙(系外銀河)とHⅡ領域の両方に相当の実績を持つ、今回の優勝候補! デユアル・ナローバンドの中ではもっとも通過バンドが広く、連続スペクトルものではやや有利。さらに、このグラフでは900nmより長い赤外線は表示されていませんが、950nm?の赤外線リモコンは通しました。950nmあたりではCMOSカメラは感度を持っている(かなり低いですが)ので、「通過バンドが広いのと赤外成分がわずかにプラス」で、小宇宙(系外銀河)がよく表現されているのかもしれません。

⑤「ZWO Duo-Band」
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QBPより鋭い特性を持っていて、特にHαのほうは半値幅がかなり狭そうです。OⅢのほうはそれと比べるとちょっと広く、Hβも含まれてそうなのですが公称では「Hβは通過しません」とのこと。この2つのバンドの広さの違いは、そのままカラーバランスの調整に影響していて、赤の成分を最大にしても青・緑より弱いことが多く、カラーバランスの調整にひと手間が生じます。HⅡ領域の表現はQBPとほぼ同等かごくわずかに上かもしれません。ただし、小宇宙の表現はQBPより明らかに劣ります。

⑥「STC ASTORO-DUO Narrowband」
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価格と言い、バンド特性と言い、HⅡ領域の表現力と言い、まさにデュアル・ナローバンドの王。その尖がった特性は、まさに輝線スペクトルものの素晴らしいコントラストに特化しており、小宇宙は赤っぽく表現され露出もかかるなど、汎用性を求めた今回の検証では不利な仕様と思われます。

これらのフィルター、HⅡ領域と小宇宙の見え方をそれぞれ5段階評価し、その2つの合計点の10点満点で汎用性の優劣を競う予定ですが、予想としては、本命「QBP」、対抗「SVBONY CLS」という感じでしょうか。

さて、事前の理屈が長くなりました。ここまでこの「机上の想定」につきあって下さった皆さま、ありがとうございます。検証できしだい、実際の結果をご報告しようと思いますのでまたお立ち寄りくださればうれしいです!

・・・やれやれ、今回の記事を書くのに3時間もかかってしまいました。これでは、「時短」とは言い難く(笑)。