電視観望においては「いいも悪いもフィルター次第」という鉄人28号みたいなセオリーが確立しつつあり、しかし、最適フィルターの選択は、各々の目的、機材、対象天体によって全く異なるため、今後もエキスパートの皆さまによる様々なカット&トライが想定されます。

当ブログでも特に電視観望におけるフィルター・ワークについては重視しており、「最強のフィルターを求める旅」とでも言うべき企画を乱発してまいりました。

さて、前置きが長くなりましたが今回のテーマは
アクロマートでの電視観望に最適なフィルター
の考察です!

アクロマートとは眼視用にもっとも目立つC線とF線の2色についてのみ焦点位置を一致させた(と同時に球面収差も補正された)レンズで、色にじみで星像がボケるため、写真用(電視観望用)には不適とされてきました。
しかし、アクロマートとデュアル・ナローバンドの組み合わせで、色収差を皆無にする提案あぷらなーとさんからなされたことで、一気にその実用性が花開いた経緯があります。

今回はいくつかのフィルターを使い、アクロマート対物での電視観望でどのような挙動を示すのか調べてみました。
「ミザールBN-80改・8cmF4屈折(クローズアップレンズNo4使用)+AZ-GTi経緯台+ASI294MC+SharpCap」
IMG_6757
による検証です。

しかし、当日は全天このような薄曇りの天気。
IMG_6758
月もご覧の有様です。
1等星が何とか見えるので、とりあえずAZ-GTiのアライメントだけでもやっておこうと、上の一式をベランダに出しました。

スピカとベガでアライメントを終えて導入機能の確認のためにM13を試しに入れてみたところ・・・
no 4s 16stack
(ノーフィルター、4秒露出、16スタック)

・・・何? これ、予想外に結構見えるんじゃ・・・?
これは検証実験できるのでは? で、条件が変わらないうちに大急ぎで実行。

まず、上のノーフィルター状態ですが、今回使用しているASI294MC のようなCMOSカメラは多くの場合、感光域が1000nmくらいまでの赤外までに広がっているため、
QE-ASI224-e1529569361738
(実際に使用したASI294MCの赤外域感度は発表されていないため、ASI224MCのグラフで代用)
この成分がピンボケを起こし、輝星はこのように「白ハロ」(800nm以降RGBの感度が同じ)状態となります。M13もピンボケになってますね。

さて、これでは困るのでいろいろなフィルターの登場となります。

まずは、UV/IRカットフィルター
61zwUDp4xhL
これは、定番とも言えるフィルターで、これを入れることで、
uvir 4s 30stack
(4秒露出、30スタック)
「白ハロ」はほとんどなくなり。すっきりした星像となりました。ただし、このフィルターは可視光をほとんど通すので、光害カット効果はほとんどなく、さらに、この画像では目立たないのですが、輝星に青ハロが発生するというアクロマート独特の味付けになります(まあ、これを逆手に取って観賞価値を求める場合もあります)。

次に反射系対物で小宇宙の淡い腕の表現にはNo1の実力を発揮する、Sv BONY CLSフィルター
51f-ZdSeVfL
これは水銀灯など光害の原因となる輝線をカットするとともに、比較的広いバンド、さらに赤外域を通すのが特徴です。反射系対物では、この赤外域のプラスαが大きなアドバンテージになっていると考えられます。
cls 4s 30stack
光害カット効果で全体的なコントラストは上がりましたが、ノーフィルターの時ほどではないにしろ、赤外成分によると思われる「白ハロ」が復活しています。

それなら、光害をカットしつつ、赤外も通さない、ミザールμフィルターでは?
IMG_6740
(このグラフには赤外域が出てないけど、カットしていると仮定します)
myu 4s 30stack
うーん、これはノーフィルターに近いくらい「白ハロ」が復活。これのフィルターは赤外成分を通しているのだろうか・・・?

ここで、最終兵器、サイトロンQBPです。
qbpf_g
しかし・・・・
qbp 4s 51stack
さすがの最強QBPでも、アクロマートでは「赤ハロ」が発生するという欠点があるのです(これはモーリスさんも10㎝F5アクロマートでの結果で報告されています)。「白ハロ」でなく「赤ハロ」になるということは、GBに対してRの感度が高い、700~800nmあたりの帯域としか考えられないのですが・・・

QE-ASI224-e1529569361738
で、QBPにUV/IRカットフィルターをかぶせた「ダブルスタック」にしてみますと・・・
qbpuvir 4s 30stack
このように、赤ハロがなくなります。状況証拠的には、UV/IRで赤外がカットされて赤ハロがなくなった、というふうに見えるのですが・・・さらに、色表現も自然な感じになっています。

で、ここでQBPのライバル、ZWO duo-Band フィルター
ZWO-Duo-Band-filter-2
QBPよりHα付近の帯域がかなり狭いのが特徴です。
zwo 4s 45stack
ちょっと青っぽくなりますが、星像はシャープですね。単独でも赤外は通してなさそうです。なら、このZWO duo-Bandをつかえばいいかと言うと、小宇宙(銀河)でのパフォーマンスがこんなかんじ
m51 zwo 16s 20stack
(ZWO duo-Band 16秒露出 20スタック)
空の条件が悪かったといえ、このように小宇宙が全然写らないんですよ。この辺がQBPと比べて今一つ。

で、結論

アクロマート屈折で電視観望する場合、フィルターは「QBP+UV/IR」のダブルスタックを使え!

ということになりました、今のところ。
しかし、この分野はまだまだいろいろな可能性があり、最適フィルターの考察は
「本当の戦いはこれからだ! 」と言えるでしょう。

さて、せっかく、ZWO duo-Band が付いているので、大好きなHⅡ領域も少し。M8,20 8秒露出 20スタック
m8,20 8s 28stack
この時は、空の条件も少し良くなっていたような気もするのですが、依然として薄曇りで限界等級1等+? くらい。南斗六星も全く確認できない状況で、ここまで見えるとは思いませんでした。

しかし、よく見ると普段なら見えるM20の青い反射星雲が全く出ていません。これは赤いHαは雲を通してそこそこ見えるけど、青い光は雲に散乱されて届かない、ということでしょうか?

そう言えば、先日、強烈な彩度で驚かされた、網状星雲のOⅢはそんなに出ていなかったですね。
ami 16s 33stack
いずれにせよ、限界等級1等+の薄曇りで、ここまで天体が見えるなんて、電視観望のパフォーマンスの凄さを感じずにはいられないですね! 

・・・もちろんアクロマートも使いこなし次第で相当いけますよ!