今回は、日本の草分けATMer、故中村要師が5cm望遠鏡に続き、1931年7月25日に「天界」にて発表した「8cm反射望遠鏡」を紹介いたします(京都大学「紅」にて閲覧可能)。
当時、金属鏡の時代の印象のまま、屈折と比べて数段劣ると思われていた反射望遠鏡が観測目的にも十分使えると提言した、日本のアマチュアにおける反射望遠鏡使用の黎明をもたらした? とも思われる内容です。反射望遠鏡(ニュートン式)の長所・短所、屈折との比較などが率直で明快に述べられており、現在の状況と照らし合わせても非常に示唆に富んだ内容となっております。
例によって、旧字体・旧かな使いを現代のものに変更したものを転載しておりますが、一部漢字や文章の意味が不明なとことは差し引いてお読みいただければと思います。
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8センチ反射望遠鏡
花山天文台 中村 要
屈折望遠鏡も5センチでは物足りないし,8センチは高償で求める事ができないという場合,もっとよく見える望遠鏡として小口径のニュートン式反射望遠鏡が選ばれるのは自然な過程である。筆者はもし
費用の点を考えずに屈折反射両式で同口径のものであれば疑いもなく手数のかからぬ屈折式を採るが,一定の費用しか無ければ多少の面倒は忍んでも反射式を選ぶに躊躇しない。8センチ反射望遠鏡は主として経済上の理由で生まれたのである。反射望遠鏡では英国では11センチ,独仏では10センチが最も小さく,8センチのものは広告は見た事があるが実用にされたものは一件位しか知らない。筆者が小口径
反射鏡に興味を持ったのは最初に自用の太陽分光観測用の73ミリ反射鏡を作ってからの事であって,それが意外に聞に合うので今まで主として自分が宣伝に努力したのである。従って8センチ級の小口径反射望遠鏡は日本において特殊な発達をしたのである。 光学設計上の困難は経験により,器械設計上の困難は京都の西村製作所の骨折りで製作毎に改良を加えられ,今日では限られた費用の範囲ではかなりの良いものになっている。旧式な考えを持った人では始めから反射式を劣ったものと考えているから。最新式の鍍銀鏡のニュートン式を二世紀も前の金屡鏡と混同して3センチ屈折鏡にも劣ったものと考えている人が珍しくない。

反射鏡に興味を持ったのは最初に自用の太陽分光観測用の73ミリ反射鏡を作ってからの事であって,それが意外に聞に合うので今まで主として自分が宣伝に努力したのである。従って8センチ級の小口径反射望遠鏡は日本において特殊な発達をしたのである。 光学設計上の困難は経験により,器械設計上の困難は京都の西村製作所の骨折りで製作毎に改良を加えられ,今日では限られた費用の範囲ではかなりの良いものになっている。旧式な考えを持った人では始めから反射式を劣ったものと考えているから。最新式の鍍銀鏡のニュートン式を二世紀も前の金屡鏡と混同して3センチ屈折鏡にも劣ったものと考えている人が珍しくない。
凹面鏡
鏡の焦点距離はF10位すなわち75ないし80センチのものが使い易く経験上よい。あまり短くすればことにF7にもなれば接眼レンズで面倒が起るよりも,光学的に視野が平坦でなくなる。8センチ鏡は小さいから作りやすそうに見えるが,事実は全く反対である。15センチ鏡なれば容易にできる人が,もし始めて8センチ鏡を数個磨いた場合,表面の美しい研磨と滑かな正しいF10の放物線面を要求された時に良い面が容易に得られないのはもちろん,端まで美しく研磨する為に要する意外な労力に閉口する。F10で正しい放物線面は得難いものであって,自分も沢山の素人諸氏の8センチ鏡を見たが何れも双曲線でなければ球面に甚だ近いものばかりであった。筆者も最初には全く閉口したのであるが,中口径鏡を磨くクラシックな方法を捨てて新しい迅速で正確な方法を考案して今はそれを主として使っている。相当の準備を要する半工業的な方法であるが,一定の焦点距離のものなれば速く磨く事ができて,しかも確実に整形のできる方法を使っている。一般に作業を急ぐ為に研磨が不充分になる事が多いが,ガラス材から整形を終るまで三時間ですむ事がある。研磨方法についてはあまり専門的な技巧であるから今は述べない。製作上の方針としては口径の不足を補う為には最も美しい研磨の方が大事であって端の悪い部分は遠慮なく摺り取ればよろしい。ガラス材は9センチ鏡は厚さ15ミリのもの,8センチ鏡は13ミリ。7センチ鏡は10ないし11ミリのものでよい。小さな鏡は自身の重量で面の狂う心配は少ないので鏡枠セルの構造が完全なれば割合に薄いガラスが使い得る。
斜鏡平面
小口径反射望遠鏡ことに10センチ以下のものでは,斜鏡の大きさについて設計上最も困る。最初から小さな鏡の中央にできるだけ小さな,しかも有効な少しも無駄の無い平面を吊らねばならぬ。8センチF10鏡で筒の直径を50ミリ,筒から焦点までを50ミリとすれば最小直径の近似値は
鏡の焦点距離はF10位すなわち75ないし80センチのものが使い易く経験上よい。あまり短くすればことにF7にもなれば接眼レンズで面倒が起るよりも,光学的に視野が平坦でなくなる。8センチ鏡は小さいから作りやすそうに見えるが,事実は全く反対である。15センチ鏡なれば容易にできる人が,もし始めて8センチ鏡を数個磨いた場合,表面の美しい研磨と滑かな正しいF10の放物線面を要求された時に良い面が容易に得られないのはもちろん,端まで美しく研磨する為に要する意外な労力に閉口する。F10で正しい放物線面は得難いものであって,自分も沢山の素人諸氏の8センチ鏡を見たが何れも双曲線でなければ球面に甚だ近いものばかりであった。筆者も最初には全く閉口したのであるが,中口径鏡を磨くクラシックな方法を捨てて新しい迅速で正確な方法を考案して今はそれを主として使っている。相当の準備を要する半工業的な方法であるが,一定の焦点距離のものなれば速く磨く事ができて,しかも確実に整形のできる方法を使っている。一般に作業を急ぐ為に研磨が不充分になる事が多いが,ガラス材から整形を終るまで三時間ですむ事がある。研磨方法についてはあまり専門的な技巧であるから今は述べない。製作上の方針としては口径の不足を補う為には最も美しい研磨の方が大事であって端の悪い部分は遠慮なく摺り取ればよろしい。ガラス材は9センチ鏡は厚さ15ミリのもの,8センチ鏡は13ミリ。7センチ鏡は10ないし11ミリのものでよい。小さな鏡は自身の重量で面の狂う心配は少ないので鏡枠セルの構造が完全なれば割合に薄いガラスが使い得る。
斜鏡平面
小口径反射望遠鏡ことに10センチ以下のものでは,斜鏡の大きさについて設計上最も困る。最初から小さな鏡の中央にできるだけ小さな,しかも有効な少しも無駄の無い平面を吊らねばならぬ。8センチF10鏡で筒の直径を50ミリ,筒から焦点までを50ミリとすれば最小直径の近似値は

すなわち10ミリである。接眼レンズの視野の実直径は12.5ミリのケルナーで10ミリ,18ミリで15ミリ。25ミリで20ミリであるから,今25ミリを使うなれば視野の端まで光が直る為には径20ミリの平面を要する。20ミリ面面の金具の厚さを加えた投影直径は22ミリであるから凹面鏡の殆んど三・五分の一の直径に相当するから明らかにヂフラクシオン(回折)の為に像が悪くなる。
全く大きな設計上のヂレンマに陥ったわけである。しかし実際25ミリ接眼鏡を使う人はまれであるし,18ミリ接眼鏡しか選択しないから18ミリ,すなわち凹面鏡の四分の一に当る直径のものを使用すれぱよいので12.5ミリ接眼鏡より使う人にはこれで充分である。変光星観測等の場合に低倍率により望遠鏡を使うなれぱ高倍率での鋭い像を多少犠牲にして20ミリあるいは多少大きなものを使えばよいのである。理想的な事を申せば16ミリと22ミリの二個を備えれば満足である。16ミリと22ミリを比較すると22ミリは約四パ一セント暗いだけであるから実際上集光力には大して差支えはない。凹面鏡の直径が9センチになれば難しい条件は著しく緩和されるので像の明るさにも高倍率を使った像にも9センチ鏡は有利である。一方低倍率の接眼レンズを使わなければニュートン式で5センチ鏡までは作り得るので,この際の平面の径は僅かに12ミリ位のものである。平面は一般に二分厚の厚板ガラスから磨くから厚さは6ミリ位のものであって甚だ厚いから安全である。光線の当たる部分は10ミリであるから,平面の正確な事よりもガラス面に傷のない砂孔のない美しく磨かれた光学面の方が望ましい。
接眼レンズ
先ず接眼レンズの焦点距離と倍率を表にすると,焦点距離800ミリの凹面鏡では,左の表のとおりである。西村製作所の売品では接眼レンズー個の普通品には何でも見える様に12.5ミリだけしかついてないが,接眼レンズを二個求めるなれぼ25ミリと9ミリ,18ミリと9ミリ或は6ミリ等の一組がよく,三箇求めるなれぼ25,12.5,6ミリの一組がよろしい。F10の凹面鏡なればミツテンズワイ式のものでも問に合うが,なるべくなればケルナーあるいは出来得ればオルソスコピツク型の色消接眼鏡が望ましい。F8程度の比較的短い凹面鏡でハイゲン式を使うなれば甚だしい球面牧差と視野の曲がりに像を台無しにする。接眼レンズを節約するなればF12位まで焦点を延長しなければならない。倍率の低い反射鏡の接眼レンズには普通のハイゲン式よりも比較的廉く求め得る顕微鏡用の接眼レンズか,あるいは月を見る時の着色を除けば良質のラムスデン接眼レンズがよく変光星槻測や彗星探しをする人には適当なものである。
ハイゲン式接眼レンズの球面牧差はF5の鏡の焦点で25ミリの接眼レンズでは約2.5ミリに近い。F10,12.5ミリでは0.3ミリくらいであって丁度放物線が球面以上に還元されたすなわち良い放物線鏡が全く意味ない程の収差を起こしているのである,接眼レンズの値はオルソスコピツク式20円,ケルナー式15円,ハイゲン式7円ラムスデン式及び顕微鏡用のものは5円までである。
太陽観測用のサングラスは一個でよく8センチ鏡では熱の為に破れる心配をしておかねばならない。天頂ダイアゴナルは反射鏡では全く無意味なものであり,太陽ダイアゴナルも焦点が短縮するから間に合わない。 8センチ反射鏡は地上用三脚台でも卓上台でも使える。反射鏡の卓上用は接眼部の高さがぼぼ眼の高さになり,何時も楽に水平にのぞけるので屈折鏡の卓上用の様な不便はない。しかも安定がよくて風が強くても使える。観測する天体によっては卓上型を縁先において,軒先に腰をかけたまま楽に覗ける便利がある。色んな天体をのぞくには庭園用の三脚の方が便利である。西村製のものには卓上用,地上用,及び手製の三脚にネジで取付けのできる構造のものの三種を作っている。筒は比較的短く作ってある。長過ぎると斜鏡に蓋をするのに手が入らないからである。凹面鏡のセル(枠)は造り易くて,しかも素人が扱って凹面鏡を歪ませるような事のないようにしてある。鏡には筒の側から扉を開いてアルミニウム製の蓋ができるようになっている。
斜鏡の金具はあまり小さいから細工がし難くてこまるが一通りの修正装置がついている。斜鏡の支持俸は筒に手を入れる都合上一本であって比較的太い俸が使ってある。接眼筒は普通品では回転式の軽便なものであるが,地上用のものにはラック、ピニオンの高級品が使ってある。ファインダーは二種ある。
接眼レンズ

ハイゲン式接眼レンズの球面牧差はF5の鏡の焦点で25ミリの接眼レンズでは約2.5ミリに近い。F10,12.5ミリでは0.3ミリくらいであって丁度放物線が球面以上に還元されたすなわち良い放物線鏡が全く意味ない程の収差を起こしているのである,接眼レンズの値はオルソスコピツク式20円,ケルナー式15円,ハイゲン式7円ラムスデン式及び顕微鏡用のものは5円までである。
太陽観測用のサングラスは一個でよく8センチ鏡では熱の為に破れる心配をしておかねばならない。天頂ダイアゴナルは反射鏡では全く無意味なものであり,太陽ダイアゴナルも焦点が短縮するから間に合わない。 8センチ反射鏡は地上用三脚台でも卓上台でも使える。反射鏡の卓上用は接眼部の高さがぼぼ眼の高さになり,何時も楽に水平にのぞけるので屈折鏡の卓上用の様な不便はない。しかも安定がよくて風が強くても使える。観測する天体によっては卓上型を縁先において,軒先に腰をかけたまま楽に覗ける便利がある。色んな天体をのぞくには庭園用の三脚の方が便利である。西村製のものには卓上用,地上用,及び手製の三脚にネジで取付けのできる構造のものの三種を作っている。筒は比較的短く作ってある。長過ぎると斜鏡に蓋をするのに手が入らないからである。凹面鏡のセル(枠)は造り易くて,しかも素人が扱って凹面鏡を歪ませるような事のないようにしてある。鏡には筒の側から扉を開いてアルミニウム製の蓋ができるようになっている。
斜鏡の金具はあまり小さいから細工がし難くてこまるが一通りの修正装置がついている。斜鏡の支持俸は筒に手を入れる都合上一本であって比較的太い俸が使ってある。接眼筒は普通品では回転式の軽便なものであるが,地上用のものにはラック、ピニオンの高級品が使ってある。ファインダーは二種ある。
A 口径14ミリ 倍率3 単レンズ組み合わせ品 視野5度
B 〃20 〃 〃6 対物色消しレンズ接眼ラムスデン 視野5度
Aは普通品で視野には十字線が張ってあって星を視野に入れるには充分である。Bは変光星観測に使うものでファインダーでもありかつ観測用にもなり木星の衛星四個は充分に見える。望遠鏡の微動は高度水平共についており、高度の方は英国型の輪の回転によるもので天頂をわずか過ぎるまで観測できる。水平の微動は小型のウォーム・ギアーによる全周微動で微動ハンドルは観測者に対し固定している。売品そのものは費用の制限で不自由の無い工作がしてあるだけであるから。構造に不備の揚合は費用を増しさえずれば良いものが出来る。現在の価格は卓上用実用型が全部で70円で光学部分品が35円,器械部か35円である。素人諸氏で鏡を持合わせている人や磨いた人は何時でも器械部だけを購入できるであろう。
B 〃20 〃 〃6 対物色消しレンズ接眼ラムスデン 視野5度
Aは普通品で視野には十字線が張ってあって星を視野に入れるには充分である。Bは変光星観測に使うものでファインダーでもありかつ観測用にもなり木星の衛星四個は充分に見える。望遠鏡の微動は高度水平共についており、高度の方は英国型の輪の回転によるもので天頂をわずか過ぎるまで観測できる。水平の微動は小型のウォーム・ギアーによる全周微動で微動ハンドルは観測者に対し固定している。売品そのものは費用の制限で不自由の無い工作がしてあるだけであるから。構造に不備の揚合は費用を増しさえずれば良いものが出来る。現在の価格は卓上用実用型が全部で70円で光学部分品が35円,器械部か35円である。素人諸氏で鏡を持合わせている人や磨いた人は何時でも器械部だけを購入できるであろう。
まず80ミリ反射鏡と屈折鏡の比較をすると,先ず明るさの点においては,投影された直径が19ミリの
斜鏡を使った時に,鍍銀面の反射率を90%(最良時は94%)即ち比較的新しい着色してない銀面の反射率を採用すると,左のようになる。すなわち明らかに対物レンズよりも暗いが80ミリ反射鏡の集光力は77ミリの屈折鏡に匹敵する事が分かるのである。鍍銀面の反射力は割合に良いものであって都会を離れた田舎で使った揚合銀に汚点がついただけなれば集光力についてあまり心配がいらないが面倒でも一年に一度の鍍銀は良い集光の為に必要であろう。しかし都会でことに大阪の様な工業都市では僅時日の間に銀面が硫化する為に赤くなって反射力が悪くなり反射望遠鏡の能率を充分に発揮する事が出来ない。像の色滑については反射鏡では全くその心配はないが,屈折鏡では月を高倍率で見た時に紫色をかぶるので反射鏡程美しくはない。ただし実際上の能力には差がない。
球面牧差については屈折鏡の対物レンズが最上等のものでない限り,三百円程度の屈折鏡についてある対物レンズは収差の無いものは皆無と称してよいくらい稀である。それに反して凹面鏡ではフーコー試験のおかげで責任のある品なら球面収差は皆無に近い。自分の扱った百個あまりのレンズや凹面鏡ではほとんど聞違いない事実である,また小口径反射鏡では15センチ以上の反射鏡に見るような筒内部の気流その他温度の影響が極めて少なく,何時も実力だけのものが見えるから解像力について反射は屈折に差はなく,ことに安物の教育用屈折鏡には決して劣るものでない。
8センチ望遠鏡で見えるもの
太陽観測には,8センチ鏡にサングラスをかけてのぞけば能率においては申し分がないが,やや光が強過ぎてサングラスが破れる心配が多い。ゆえになるべく筒口を厚紙を切抜いて作った5センチの絞りを使って覗く方がよい。太陽観測に反射鏡がよくない事はよく知れている。観測を始めてしばらく経てば筒の内部の空気が熱せられて像が乱れてはっきり見えなくなる。筒を白く塗ってある程度まで防ぐ事ができるが、凹面鏡のメッキをはがして使うなれば熱も来ず、像も理想的であって、滋賀県の木辺成麿君もこの方法で約三年太陽観測を続けておられるが、黒点数の多い事と観測のよく揃っている点では太陽課のピカ一である。接眼レンズは12.5ミリがよい。
月は150あるいは200倍まで使う事が出来るし、この倍率では雑誌の写真版になっているウィルソン山の月写真の程度のものはよく見える。
金星は望遠鏡の大小にかかわらず美しい三日月のほか表面には何も見えないが反射鏡では全く色が着かないから美しい。
火星は海の存在は充分に分かるがその模様がはっきりしないから自転を認める事はできない。極冠も見えるが鮮明ではない。
木星は帯や衛星四個は5センチよりも遥かによく見える。衛星四個共に恒星と異なった大きな像を有する事も知れる。150倍も使えぱ木星の自転が分かるし,木星面を通過する衛星の影も見える。
土星は本体上の帯の存在が見え始める。環そのものは容易であるが,環上のカシニ環は環の最も傾いた時でも何人でも分る程にははっきりとは見えない。衛星はチタンの外二三見える事があるが淡い。
天王星はかろうじて円盤像が認められるが海王星は恒星と区別がつかない。
彗星探しも口径が大きくてその割に使い易いから好都合の器械であって観測家の熱心があれば8センチで見つかる彗星は年に二三個はある。
恒星は11.5等まですなわち11等全部が確実に見える。しかも1.5秒の分離能力があるから見うるべきものは甚だ多い。星雲や星団もよく見えるものが多くなってM35, M11等の星団も充分美しく見える。球状星団も個々の星がやっと見え始め微星の集合に見えるようになる。二重星も有名なものが楽々見えるようになる。
変光星も11.5等までは確実に見えるが6等7等の星が見えなくなるから、小口径のファインダーが欲しい。たいていの長周期星は極小近くまで観測ができる。観測用の倍率は40倍位がよろしい。
一般に8センチ鏡は5センチ鏡に比して明るさにも能率にも格段の差がある。ただのぞくだけなれば8センチで充分であるが,遊星その他小さな天体の観測には小さ過ぎる。8センチ望遠鏡は天体用としてはむしろ最小のものであって教育用とも称すべきものであって,研究観測のためには10センチあるいは以上のものが必要であるように思われる。
8センチ反射望遠鏡はまず価格の廉い事と、その割には何でも相当に見え,しかも取扱いやすいという特長を持っている。光軸の修正や,鍍銀の面倒は反射鏡の常として致し方がない。限られた費用で,しかも立派な研究観測をしたい時に,このあまり知られていない小口径の反射望遠鏡をお勧めしたいのである。購入した反射望遠鏡で観測している人が相当有りながら,自作のマウンチングの反射望遠鏡で研究観測の発表している人が皆無である事は観測に手製のマウンチングでは月や遊星は見えても他のものを見る事に不自由するというマウンチングの重要な事を物語る一つの著しい事実であるから,小さくても相当良いものを持つように心掛けてほしい。同好会員である諸君の中でもし8センチ鏡のみを所持せられる揚合に部分品が必要である時や,器械部分の設計が欲しい時には遠慮なく相談して頂きたい。 磨きかけた8センチ鏡なれば全くの実費で完成してあげたいし,その品には適当な光学平面をつけてあげたい。
8センチ屈折望遠鏡
8センチといっても有効口径が70ミリ位から80ミリ位まであって一概には言い得ないが,見えるものは反射鏡の部で書いたくらいのものであり,同じ口径の反射鏡よりも多少明るく,一度購入すれば取扱上の面倒は極めて少ない。8センチ屈折望遠鏡は天文望遠鏡としてよりも教育用と称すべきものであるから,教育用の見えればよい程度の低いものから,天体用の極めて高級品まで種々あり,従って対物レンズも価格に応じて材料や加工の精粗に大差がある。対物レンズも中等品以上なれば星像の鮮鋭さに差はあっても実用上の能率に大差はない。250円程度のものは教育用と称せられるもので構造が簡単,接眼レンズも何を見るにも都合のよい70倍のものが一個切りであるのが普通である。もし有益な研究観測をするなれば40倍と130倍の接眼レンズを備え付けねばならぬ。350円程度のものは研究用の上等品である。対物レンズに申し分の無い優良品なれば500円あるいは以上かかる。
口径 8センチ 焦点距離 115センチ前後
接眼レンズ 25, 12.5, 6ミリ
サングラス 2個 太陽用ダイアゴナル ファインダー}必らずしも必要ならず
格納箱共
価格は300円ないし350円の見込み,製作所は東京市外駒沢町上馬一 四三
五藤光学研究所及び,下記の西村製作所
8センチ反射望遠鏡 口 径 8センチ 焦点距離 80センチ前後
接眼レンズ ケルナ一式 12.5ミリ サングラス一個
ファインダー 一個
価格は 70円位
京都市川端荒神口上ル 西村製作所

球面牧差については屈折鏡の対物レンズが最上等のものでない限り,三百円程度の屈折鏡についてある対物レンズは収差の無いものは皆無と称してよいくらい稀である。それに反して凹面鏡ではフーコー試験のおかげで責任のある品なら球面収差は皆無に近い。自分の扱った百個あまりのレンズや凹面鏡ではほとんど聞違いない事実である,また小口径反射鏡では15センチ以上の反射鏡に見るような筒内部の気流その他温度の影響が極めて少なく,何時も実力だけのものが見えるから解像力について反射は屈折に差はなく,ことに安物の教育用屈折鏡には決して劣るものでない。
8センチ望遠鏡で見えるもの
太陽観測には,8センチ鏡にサングラスをかけてのぞけば能率においては申し分がないが,やや光が強過ぎてサングラスが破れる心配が多い。ゆえになるべく筒口を厚紙を切抜いて作った5センチの絞りを使って覗く方がよい。太陽観測に反射鏡がよくない事はよく知れている。観測を始めてしばらく経てば筒の内部の空気が熱せられて像が乱れてはっきり見えなくなる。筒を白く塗ってある程度まで防ぐ事ができるが、凹面鏡のメッキをはがして使うなれば熱も来ず、像も理想的であって、滋賀県の木辺成麿君もこの方法で約三年太陽観測を続けておられるが、黒点数の多い事と観測のよく揃っている点では太陽課のピカ一である。接眼レンズは12.5ミリがよい。
月は150あるいは200倍まで使う事が出来るし、この倍率では雑誌の写真版になっているウィルソン山の月写真の程度のものはよく見える。
金星は望遠鏡の大小にかかわらず美しい三日月のほか表面には何も見えないが反射鏡では全く色が着かないから美しい。
火星は海の存在は充分に分かるがその模様がはっきりしないから自転を認める事はできない。極冠も見えるが鮮明ではない。
木星は帯や衛星四個は5センチよりも遥かによく見える。衛星四個共に恒星と異なった大きな像を有する事も知れる。150倍も使えぱ木星の自転が分かるし,木星面を通過する衛星の影も見える。
土星は本体上の帯の存在が見え始める。環そのものは容易であるが,環上のカシニ環は環の最も傾いた時でも何人でも分る程にははっきりとは見えない。衛星はチタンの外二三見える事があるが淡い。
天王星はかろうじて円盤像が認められるが海王星は恒星と区別がつかない。
彗星探しも口径が大きくてその割に使い易いから好都合の器械であって観測家の熱心があれば8センチで見つかる彗星は年に二三個はある。
恒星は11.5等まですなわち11等全部が確実に見える。しかも1.5秒の分離能力があるから見うるべきものは甚だ多い。星雲や星団もよく見えるものが多くなってM35, M11等の星団も充分美しく見える。球状星団も個々の星がやっと見え始め微星の集合に見えるようになる。二重星も有名なものが楽々見えるようになる。
変光星も11.5等までは確実に見えるが6等7等の星が見えなくなるから、小口径のファインダーが欲しい。たいていの長周期星は極小近くまで観測ができる。観測用の倍率は40倍位がよろしい。
一般に8センチ鏡は5センチ鏡に比して明るさにも能率にも格段の差がある。ただのぞくだけなれば8センチで充分であるが,遊星その他小さな天体の観測には小さ過ぎる。8センチ望遠鏡は天体用としてはむしろ最小のものであって教育用とも称すべきものであって,研究観測のためには10センチあるいは以上のものが必要であるように思われる。
8センチ反射望遠鏡はまず価格の廉い事と、その割には何でも相当に見え,しかも取扱いやすいという特長を持っている。光軸の修正や,鍍銀の面倒は反射鏡の常として致し方がない。限られた費用で,しかも立派な研究観測をしたい時に,このあまり知られていない小口径の反射望遠鏡をお勧めしたいのである。購入した反射望遠鏡で観測している人が相当有りながら,自作のマウンチングの反射望遠鏡で研究観測の発表している人が皆無である事は観測に手製のマウンチングでは月や遊星は見えても他のものを見る事に不自由するというマウンチングの重要な事を物語る一つの著しい事実であるから,小さくても相当良いものを持つように心掛けてほしい。同好会員である諸君の中でもし8センチ鏡のみを所持せられる揚合に部分品が必要である時や,器械部分の設計が欲しい時には遠慮なく相談して頂きたい。 磨きかけた8センチ鏡なれば全くの実費で完成してあげたいし,その品には適当な光学平面をつけてあげたい。
8センチ屈折望遠鏡
8センチといっても有効口径が70ミリ位から80ミリ位まであって一概には言い得ないが,見えるものは反射鏡の部で書いたくらいのものであり,同じ口径の反射鏡よりも多少明るく,一度購入すれば取扱上の面倒は極めて少ない。8センチ屈折望遠鏡は天文望遠鏡としてよりも教育用と称すべきものであるから,教育用の見えればよい程度の低いものから,天体用の極めて高級品まで種々あり,従って対物レンズも価格に応じて材料や加工の精粗に大差がある。対物レンズも中等品以上なれば星像の鮮鋭さに差はあっても実用上の能率に大差はない。250円程度のものは教育用と称せられるもので構造が簡単,接眼レンズも何を見るにも都合のよい70倍のものが一個切りであるのが普通である。もし有益な研究観測をするなれば40倍と130倍の接眼レンズを備え付けねばならぬ。350円程度のものは研究用の上等品である。対物レンズに申し分の無い優良品なれば500円あるいは以上かかる。
天文同好会観測部指定品
8センチ屈折望蓮鏡口径 8センチ 焦点距離 115センチ前後
接眼レンズ 25, 12.5, 6ミリ
サングラス 2個 太陽用ダイアゴナル ファインダー}必らずしも必要ならず
格納箱共
価格は300円ないし350円の見込み,製作所は東京市外駒沢町上馬一 四三
五藤光学研究所及び,下記の西村製作所
8センチ反射望遠鏡 口 径 8センチ 焦点距離 80センチ前後
接眼レンズ ケルナ一式 12.5ミリ サングラス一個
ファインダー 一個
価格は 70円位
京都市川端荒神口上ル 西村製作所
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反射望遠鏡をアマチュア天体観測の新しいツールとして普及しようという熱意が伝わってきます。安価であることが売りものなのも当時からなのですね。屈折300~350円のところ70円とは! 当時としては大きなブレークスルーとなったと思いますが、その流れが現在にも至って、わたくし自身も観望には主として「安価な」ニュートン式反射を使い続けております。それにしても「ガラス材から整形終了まで3時間で済むことがある」とは、まるで伝説のみで聞くリストの超絶技巧のようですね・・・
さて、恒例(?)のもっとも印象に残った中村師のことば
磨きかけた8センチ鏡なれば全くの実費で完成してあげたいし,その品には適当な光学平面をつけてあげたい。
駆け出しATMerが望遠鏡の製作に悩んでいるときにこれ以上の心強い言葉があるでしょうか?
まさに神!
***
以上、先達の考えをどうしても皆さんに知っていただきたくてアップしました。著作権には触れないと思っておりますが、「京都大学紅」関係の方等、問題があると感じた場合はご一報ください。ただちに削除したいと思います。また、解釈上の間違い等ありましたらお知らせくださればうれしいです!
コメント
コメント一覧 (12)
この8cm反射はデザインが洗練されていて、今見てもカッコイイですね。
自作機や古い望遠鏡の写真は参考のためとするほかにコレクションとしても集めているので以前、
この記事関連で出てくる写真もゲットしました。
中学の頃、図書館にあった古い昭和40年頃の児童向け天文書には、「アマチュアの研究には3
インチもあれば充分でしょう」と書いてあって、当時はそんなものだったのかな、と思っていま
したがさすが中村先生。
それよりはるか前の戦前に相当尖った発言をなされていて背筋が伸びる思いです。
昔のミザールの85ミリF10?反射もよく見えたらしいので手に入れてみたいと思っていました。
超一流以外の各社では75㎜~90㎜ぐらいの反射がラインナップにありました。卓上のトイクラス5cm
とか以外だとけっこう実用レベルの品質だったようですね。
uwakinabokura
が
しました
特に興味をそそられたのは、鏡面研磨の方法です。うまくはぐらかされ(笑)ていますが、短時間で整形まで持っていったクラッシクでない「半工業的方法」とはいかなるものなのでしょうか?興味が尽きません。また反射鏡に合うアイピースについても言及されていますが、内容的にはほとんど自分が星を見始めた50年前と変わっていません。現在では高倍率での使用の評価が高まりつつあるラムスデンにしても、低倍率での使用が推奨されているのは、自作しやすいからではないかと想像します(なおその50年前に低倍率広視野といえばエルフレでした)。メッキにしても化学的銀メッキを毎年行うようにされています。少年時代に読んだ自作テキスト(木辺先生か星野先生の著作)では、硝酸銀による化学メッキも紹介されていましたが、鏡面を自作するのはこんな錬金術みたいなことをやらなければならないのか!?と絶望的な気持ちになったことも思い出します。当時いかに情報が少なかったかが分かりますが、そこからさらに40年さかのぼるころの記事ですから、熱心な天文ファンはさらに情報に飢えていたことは想像に難くありません。また木辺先生のことを「君」付けで呼ぶのも、やはり年上ならではですね。中村先生のことは確か本となり出版されていて、入手しようと薄々考えていたものの、入手に至りませんでした。返す返すも残念です。
uwakinabokura
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自分が中村先生のことで一番興味があるのが、1930年の中村彗星の発見です。星を見始めたころはカタログに掲載されていましたが、追跡観測もなく、その実在が疑問視され現在ではカタログから外されています。本当に何かの見間違いだったのでしょうか?紹介された記事を読む限りでは、これだけの見識ある方が何かを見間違えるとは考えにくいのです。そこで思い当たるのが、地球に極めて接近した彗星ではないか?ということです。これは本田先生や関勉さんも目撃されていらっしゃるようですが、このような天体でしたら当時の情報網では追跡が難しかったと考えられます。SOHO彗星を見ていても、相当数の氷の塊が宇宙空間を漂っていることが伺えます。たかだか2~3mの岩塊ですら発見追跡される現代では、中村彗星も間違いなく追跡観測できたと思います。若いころは中村先生の見間違いだったのではないか?と勝手に解釈していましたが、多くの情報が入る現代になり、自分の考えが浅はかであったことを思い知らされた気分です。
古い資料の発掘、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。
uwakinabokura
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活版職人はそんな用語知るわけもなく、手書きの字を眺めながら組版したのでは、と。
uwakinabokura
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8cm反射望遠鏡の普及に関しては、以下の文献にも明記されています。
○ 中村要・反射望遠鏡の知識 (京都大学)
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/161483/1/tnk000104_001.pdf
昭和初期、観測者の主流は、10~13cmの模様です。
○ 木邉成麿氏 ・故中村要氏の研究 (京都大学)
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/162289/1/tnk000140_452.pdf
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/165429/1/tnk000150_365.pdf
木邉成麿による、中村鏡レンズ解析 etc 論文です。
uwakinabokura
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uwakinabokura
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自分も中村要については全然詳しくないのですが、紹介可能な著作を通じて少しづつ学んでいけたらと思っています。
uwakinabokura
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