月一回、第1土曜日の20:00からという「定例」になりましたWeb会議「オープン双天会」ですが、今回のテーマは

眼視観望において、かすかな光を放つDSOの淡い部分や、惑星の模様の細かく、かつコントラストの低い部分を見るにはどうしたらいいか?

というもので、ある意味、眼視観望の真髄に迫る企画になります。今回の会議は1ステージ40分×4ステージおこないました。
#6
以下、活発に戦わされた論議の一部を箇条書きにて!


第1ステージ

  ①15cm単独では見えない木星の細かい模様 → 50cmで確認 → 15cmでもはっきり認識できるようになる。
  ②馬頭星雲見えない → 星の位置から、馬頭星雲のある位置を確認 → 確認できる
  ③青空の中の昼間の金星見えない → 電線などを金星の位置確認基準を置く → 楽勝で確認
など、そのままで見えなかったものが、「視認の道筋」をつけることで、見えるようになるらしい。そのノウハウを何とか体系づけられないだろうか。

*惑星の模様にしろ、DSOの淡い部分にしろ、それまでの経験や知識によって、「あるべき姿」が脳内にイメージとしてあれば、部分的な認識ができれば、記憶上の全体像を引っ張り出すことが出来るのではないか? そして多くの場合それは「大外れ」はしない? 反面、セオリーにないイレギュラー事項は認識できないことにもなる? (例えば、船という存在の知識がない人は海の上に船があっても見えないらしい)

*耳に関して言うと、若い時にたくさん音楽を聴いていると、年を取って耳が衰えても、その経験で補完して音楽を正しく聴きとることができる。視覚でもそれがあっても不思議ではない

*例えば、視野内の「盲点」の部分はなにも見えないはずなのに、脳はそこを見えてるものとして埋めていく。また、視野狭窄の人なんかも、自分では視野が狭まっているのに気づかないケースがあり、人間は見えてないものを経験から絵を作って見えてるように扱うことがあるようだ。惑星観察にしても経験の多い人は処理するためのテンプレートが頭の中にたくさんあって、それに当てはめて視認している? 結局は「目がいい間にたくさん見とけ」ということになるか?

知覚的盲目Perceptual Blindness。「知ってれば見えるけど知らないと見えない」。学習により、ものが見えたり見えなかったりする。utoさんのブログ記事↓


*昔の人のスケッチは明らかに今の人より情報が少ない。今の我々はいろんな情報を得ているので見えるが、空は今より良かったであろう昔の人がスケッチに残せてないのは情報不足によって視認できない部分があったのではないか。

*火星の「運河」も火星人が文明を築いている先入観の反映? 

*いや、100年以上昔のスケッチでも現在の我々のイメージに近いものもある。観測者の主観により「客観性重視」する人、「意訳」する人などいろいろな「流儀」があったのかもしれない。

*単眼と双眼では双眼の方が視認性が高い。例えば右目単独で街頭を見るとフレアが出るような場合、双眼で見るとそのフレアが消える。また、左右の目で視力が違う場合、双眼ではいい方の視力に合う。

*単眼で見るとき、皆さん反対側の目をつぶっていますか → 開けている人が多かった。
彗星捜索のセオリーとしては反対側の目を覆うカバーがあって両目を開けて捜索する。開けた方がリラックス効果あってよいかも知れない。しかし、この辺は個人差がありそう。

*双眼視するより単眼で見た方が見やすいという人もいる。また論文によれば双眼視で視認性が向上しない人も一定数いる。また、「機器を使った双眼視」自体の技術的難度が高い。双眼鏡を使っても片方しか見てない人はかなりいるだろう。

*結局、双眼も単眼も「慣れ」か。経験を積めば脳のスイッチ切り替えをおこなうだけ最適化された視認を行うことが出来る。

*双眼によって視認性はあがるが、「双眼装置」の場合、どうしても明るさが半分以下になるので、単眼鏡筒で細部を見るときは双眼装置は使わない(双眼望遠鏡の場合は明るさを失わずに視認性向上ののメリットのみが得られる)。

第2ステージ

*鏡面像はどうしても嫌、という意見、または、鏡面像(裏像)も太陽や球状星団とかでは問題ない、星図と照合するときは困るが・・・等の意見、両方あり

*徳島のにゃにゃにゃさんの55㎝双眼望遠鏡のような超ド級の機材は、かなりの微光天体も検出できるのだろうか。検出限界等級のチャレンジを見せてもらったことはないが、とにかくメジャー天体の迫力がすごい

*さらにあのレベルの機材を組み立て・撤収とも30分ほどでおこなう。その作業の淀みなさ・迷いのなさはそれだけで一つのショー、と言えるレベル。

*透明度の良い日にM1かに星雲が「カニ」に見えたことが一回だけある。佐渡島には見えなかった。カニの足みたいな状態で「動いて」いた

*火星を最初ノーフィルター見た時は色が見えなかったが、各種色フィルターで一通り見た後ノーフィルターに戻すとカラー画像で見えて驚いた。脳内三色分解・合成が行われたのだろうか?

*火星の運河は観察者の眼底血管が見えていたのではないかという説がスカイ&テレスコープに載っていた

*人間も止まっているものの視認に対してはすごく鈍感で、動いているものに敏感に反応する。さらに映像が止まっていると網膜の化学反応も「焼け付き」を起こすので、同じ位置を使わないように、眼球は30~70Hzで細かく動いている。

*接眼部を叩いたり、視野をゆっくり振ったりして暗いものを捉えるというテクニックもある。

*そらし眼の最も感度の良い部分は個人差があるか? 多くの人は外側の少し上の方だという感じだろうか。盲点があるから外側は使うな、と書いてある本もあるが・・・

*ハワイの標高3000mにて、18インチ(45㎝)でM57を導入する途中で、IC1296の手裏剣みたいな形が見えて驚いた。静止させてそらし眼で見ようとすると見えない。動かすのはやっぱり暗いものが見えるのかも。
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*この時は手動導入で「動かして」いたからこそ見えたのではないか。自動導入、追尾で止まっている映像では見えなかったかも知れない。

*ナイトビジョンのチラチラするノイズは技術的な問題ではあるのだけど、画像が動いているという意味で視認性や臨場感を高めているかも知れない。

*M42の色が見えるという人がいるけど、見たことない → 明るい部屋の中などで目を明順応(色を感じる錐体細胞を使っている状態)させておき、それからすぐに外の望遠鏡のところに行って見ればたぶんM42の色は見える。その場合、覗いた瞬間は色が見えているのだけれど、暗順応(色の見えない桿体細胞を使うことになる)していく過程で色が見えなくなって行くと思われる。

*反射特性がフラットで赤の成分を反射させる銀メッキミラーは赤色が見えやすい気がする。M57も青く見えた。

*色の見え方は男女差があるのではないか? 女性は色を見る力が強いように感じる。予備知識のない女性がM8が赤く見える、火星の模様がよく見える、などの報告あり。女性は16段ぐらいの色のチャートを見た時にあきらかに男性より細かい色の違いを見分けるということである。

第3ステージ

*アメリカで70~100㎝を運用している皆さんは、4時間とか5時間一つの天体を見続ける。スターパーティとかで17等、18等の天体を見るという架台が出た時などはそれをやらないと検出できないらしい。極端な場合は、いろんなテクニックを駆使しつつ8時間かけてやっと検出できた、という場合もあるらしい。

*「質より量」。量をこなすことによってブラッシュアップが進み、ブレークスルーが訪れて、初めて質を上げることができる。とにかく量をやること。ただし、4時間の後の成功体験があれば量をこなすことにも耐えられるけど、その見込みがないと耐えられないだろう。

*やっぱり、実際に観望に行ったらいろんな天体に目移りしてしまうので、どうしても浮気してしまう。また、光のシミみたいなマイナー天体を見てて、メジャー天体に移ると、おーやっぱりいいなと思える。まだ、自分はメジャー天体を味わいつくしてなく、マイナー天体に移る段階にはないのかな、と

*いや、アメリカのマイナー天体志向の皆さんは、最初から暗い天体を見る、という目的に特化しているだけであって、メジャー天体を網羅した後の結果ではない。だから逆にメシエ天体とかを知らなかったりする。M33を見てるなと思ったら、銀河本体ではなく、その中にある超新星残骸を見ていたりとか。1mとかの大口径を所有するのは微光天体の検出のため。

*火星を見ながらいろんなアイピースの評価をしていた時に、Twitterでどなたかがリアルタイムの火星を上げてくれ、それの模様を確認しながら見ていたら模様が次々と見えてきた。その「追いこみ」がすごかった

*ラムスデン系のSR4mmは中心の良像範囲が木星の視直径? くらいしかないが、名だたる名アイピースに引けをとらない見え味を示す。これは単レンズのアイピースにも言え、全体としてはボケているのだけど、どこかの波長にはピントが合っており、その波長に細かい模様の情報が入っていれば解像度が高く認識できるのではないか。天体写真のLRGB合成になぞらえると、ピントの合った波長域をL画像として認識し、それにRGBの色情報を重ねた、脳内LRGB合成が行われている?

*ジフラクションリングを見た時に、リングとリングの間の黒い部分のコントラストの差が大きいアイピースが惑星の細かい部分が見える気がする。ラムスデンや単レンズではこれに相当するかもしれない。

*惑星の模様を見ようとし続ける、暗い天体を4時間5時間見る、などの反復練習によってスポーツの理にかなったフォームを身につけるように、視認性が磨かれていくかもしれない。結局はやり込み次第の「根性」の問題なのだろうか

*アイピースを評価するにあたっても、当初あまり評価が高くなかったアイピースでも見なれるにしたがって、だんだんよく見えてくることはある。観察者のスキルがアイピースの評価にも影響を与えるということで、ひょっとしたら熟練観察者のアイピース・レビューは我々素人とはギャップのある結果になっているかも知れない

*射出瞳が小さい高倍率の場合は、自分の目の水晶体のもっとも収差の少ない部分を積極的に使う努力が必要かも知れない。アスのない、つまり乱視の程度の軽い部位を使えるような。

*「己を知る」自分の目の最も感度の高い部分、もっとも収差の少ない部分を知り、そこを積極的に使えれば下手にアイピースなどの機器に投資するより効果的なパフォーマンスを得られる可能性がある。

*5cmでの眼視で木星の模様を検出する等の苦行を積んでいたところ、先日の視力検査で視力が生まれて初めて2.0になっていた。訓練すれば視力そのものが上がることがある。さらに45㎝で惑星を見たところ今まで以上に良く見えるという結果にもなった。


・・・とここまでで、眼視観望と言うものは、観察者の状態によってパフォーマンスを大きく換えるということがわかりました。特に、いろいろな観望の経験・知識(自分の身体的条件を知ることも含む)が重要という結果になっています。言わば

結局、眼視は努力と根性や! (ただし、究極の限界性能を求める場合)

という昭和のスポーツ漫画のような(笑)、当初、全く想定してなかった結論が導き出される流れになりました。
さて、以上で通常モードの3ステージは終了。エクステンドの第4ステージは、Mel BartelsのF3クラス・メニスカスミラーの話題を取り上げています。

その模様は次回更新にて!