都会の光害下でもDSOの撮影や電視観望が可能になる「近赤外利用」の方法が公開され、現在爆発的な普及の途にあるのですが、SQM18等台以下の「本格派光害地」では光害カットのためHaフィルター、IRフィルターなどを使用するのがセオリーとなっています。

しかし、フィルターを利用した近赤外利用はメリットも大きいものの、

①DSOの発する周波数バンドの一部しか利用できないため露出倍数がかかる
②利用周波数の波長が長いため解像度が低下する
③銀河の暗黒帯の表現に切れがなくなる(赤外は暗黒帯で散乱されにくいため?)

など、本当に「玉にキズ」的な些細なものですが、デメリットも明らかになってきています。

もちろん、無光害地や低光害地ではノーフィルターで全ての帯域を利用することで上の①~③のデメリットが発現せずにすみます。
今回は、中程度の光害地(SQM20等台程度)でのノーフィルターの運用は、メリットとデメリットのどちらが大きいのか考えてみました。


検証は、ミード2045(10㎝F10シュミットカセグレン)を使った電視観望でおこないます。
IMG_2462
これにカサイの、0.75×アイピースレデューサーを使い、焦点面とのインターバルで拡大率を調整して、0.6×、10㎝、fl=600mmの状態にQHY5III485C、SharpCapによる画像処理で電視観望をおこないました。
IMG_2460
この組み合わせでは視野周辺部に結構なコマ収差が発生しましたが、とりあえず中央拡大することで問題を封殺(笑)
まずはノーフィルターでNGC2003 露出32秒 gain40 21stack
2903 32s gain40 21stack nofilter
まずまずですね。続いて、これまでの検証で銀河最強の結果を出しているSVBONY CLSフィルターを入れて・・・同じく露出32秒 gain40 22stack
2903 32s gain40 22stack cls
あ、これ、同じ露出なら全帯域を利用できるノーフィルターの方が周辺部の出方が少しいいのではないかな? と見えますね、やっぱり。

やはりF6の口径比では露出時間がかかるので、ここで10㎝F6をあきらめ、いつものシュミットニュートン14㎝合成fl=437mm、合成F3.1仕様にスイッチ。
IMG_2263
NGC20903を16秒露出 gain40 42stack ノーフィルターで。
2903 16s gain40 42stack nofilter 400mm
fl=600mmからfl=437mmにスケールダウンしたにもかかわらず、Fの明るさも相まってこちらの方が細かい部分が表現で来ている気が・・・? 微光星もより写っている?
当方自宅はSQM20.14ですが、少なくとも連続スペクトルの天体に関してはノーフィルターで帯域を広く利用した方が、電視観望にかける時間の効率がいい、と言えそうです。

これは、QHY5III485Cより赤外感度の高いASI462MCではもっと顕著に表れるのではないかと仮定し、CMOSカメラを462に交換。
IMG_6053
同じNGC2903で比較できればよかったのですが、462に交換した時点で屋根の稜線に沈んでいたため、止むをえず、対象をM104ソンブレロに変更。8秒露出 gain300 100stack。
104 8s gain300 100stack nofilter 400mm
わずか8秒の露出ですが、462センサーの赤外感度に加え、可視光域もフルに使っているため、かなりコントラストを上げることができました! (ちなみに白く表現される赤外成分の影響で、基本的に星は「白飛び」しますので、カラーCMOSなのだけれど、ほとんど白黒って感じになってます)

さらにM101回転花火銀河、8秒露出 gain300 89stack ノーフィルター
101 8s gain300 89stack nofilter 400mm
うーん、腕の部分がよく出てるけど、これは以前にSVBONY CLSフィルターを使用して、同じく 8秒露出 100stack gain300でやったのとそんなに変わらないかな?
m101  8s 100stack gain300 cls
まあ、上の画像の時とは空の条件も違うから単純には比較できないですけどね。

ちょっと気分を変えて、北天の球状星団の王、M13 8秒露出 gain300 23stack
13 8s gain300 23stack nofilter 400mm
これは別に普通でしたね(笑)。やはり星の色の彩度はほとんどありません。

M65,66 4秒露出 gain300 145stack
65,66 4s gain300 145stack nofilter 400mm
あー、これは今までfl=434mmで電視観望した中で一番構造が出ている気がします。しかもわずか4秒露出でです。ノーフィルターのメリットが感じられやすい対象と言えるでしょうか?

黒眼銀河も4秒露出、gain300 135stack
kurome 4s gain300 135stack nofilter 400mm
これも4秒露出で、自分レベルですけど(笑)これまでにない細かい構造が見えてる?

ひまわり銀河は8秒露出、 gain300 120stack
himawari 8s gain300 120stack nofilter 400mm
これは明らかに今までで一番「ひまわり」っぽっく表現できました。やはりノーフィルターは銀河の暗黒帯の表現に有利なようです。

本日のハイライトはM83 4秒露出 gain300 201stack
83 4s gain300 201stack nofilter 400mm
fl=434mmでここまで出せたことは今までありません。自己ベストと言ってもいいほどの手ごたえです! しかもわずか4秒露出で準リアルタイムの電視観望ですよ!

というわけで、中光害地においてASI462MCを使用し、ノーフィルターでおこなう銀河の電視観望、画像としてはほぼ白黒になってしまいますが、今までで一番銀河の構造を捉えることができました。今後、空の条件によっては「SVBONY CLSフィルター使用」に逆転を許す状況もあろうかと推測しますが、露出時間は明らかに短くて済みますので電視観望の最大のメリットである「時短」には大きく貢献するだろうと思います。

で、ここで夏のHⅡ領域が昇ってきました。輝線スペクトルだし、ノーフィルターのメリットはあんまないだろうな・・・と思いつつ向けてみたM17、8秒露出 gain300 41stack が・・・
17 8s gain300 41stack nofilter 400mm
なんじゃこりゃ!? 赤外で白飛びしているものの、星が写り過ぎでしょ! 星の洪水や!

で、そう言えばM20 の反射星雲はどうなる? で 4秒露出 gain300 80stack
20 4s gain300 80stack nofilter 400mm
うわわ、これも悪くない! 全く悪くないぞ! 青い反射星雲もそれなりに出てるし、何より三裂の暗黒星雲がきめ細かく入り乱れて美しいじゃあ、あーりませんか! しかもわずか4秒露出で!

M16には期待を込めて8秒露出、 gain300 50stack
16 8s gain300 50stack nofilter 400mm
「創造の柱」が、何とも立体感のある表現、こういう感じに見えたことも今までなかったですね!!

うーん、これは銀河の構造と言い、HⅡ領域の星形成領域と言い

ノーフィルター、暗黒星雲の表現最強

という新たな伝説の幕開けなのではないだろうか?
(周知の事実を自分が知らなかっただけの可能性もあり 笑)

SQM20等台の地域にお住まいの皆さま、ノーフィルター、侮れまへんで!