SV550鏡筒、やはり一番最初にやってみたいのは電視観望でのフィルターによる違い。今回はそのテーマで行きます。

SV550、8cmF6鏡筒に専用フラットナ―、ASI294MC、AZ-GTi、ShapCapによる画像処理と、いつもの電視観望機材です。
IMG_6156
光害により、肉眼での限界等級は2等程度。しかし透明度は悪くなさそう。風もなくシーイングはかなり落ち着いた条件でした。

検証の対象はM8、20を選定。上の画像は導入した時(午前2時頃)の鏡筒の仰角ですが、かなり西に傾いており、このあたりの空は2等星も見えない条件でした。ASI294MCのGainを390に設定し、4秒露出にて、まずはノーフィルターでのスタックなし画像。

M8,20 gain390 4s no stack nofilter
M8,20 gain390 4s no stack nofilter
おお、いい感じですね。星も見えないところからこのような画像をあぶりだす電視観望はやっぱりすごいです。ちなみにスタックなしの状態では、星像は視野中央、4/3”の最周辺ともにASI294MC(4.6μm)で2~3ピクセルほど(星像直径10~15μm程度?)。ほぼ全面ピンポイントと言っていい星像を示しました。

この状態でライブスタックしますと・・・

M8,20 gain390 4s 32stack nofilter
M8,20 gain390 4s 32stack nofilter
一気に画面がにぎやかになります! 特筆すべきはイメージサークルの広さですね。これフラットも何も使ってないのですが周辺減光がほとんど見られません。わずかに4/3"の4スミが「少しかげる」くらい。しかもノーフィルター+低空でバックグラウンドがかなりカブっているにもかかわらず、です。

ただし、微光星はシャープなものの少し明るい星になると、ボテッとしており、3枚玉と言えどやはり赤外ピンボケの影響は避けられないようです。
(注:望遠鏡やカメラのレンズでは通常、赤外域の使用が想定されておらず、赤外結像の評価は本来の性能とは関係ない部分になります)

それでは、次にUV/IRカットフィルターを使用します。
uvir
(CMOSセンサーは、400nmより波長の短い紫外域、700~1000nmまでの近赤外域にも感度を持っているものが多いのですが、このフィルターにより紫外・赤外ともカットされ、可視光のみのとなります。紫外域の感度は少しなので一般的には近赤外域が問題となります。)

M8,20 gain390 4s 32stack uvir cut filter
M8,20 gain390 4s 32stack uvir cut filter
予想通り、一気にシャープになりました。さらに輝星の青ハロもほとんどないと言っていいレベルです。
HⅡ領域のピンクやM20 の青い反射星雲の色表現も自然な感じで美しいです。このように可視光の範囲での使用がメーカーで想定されているSV550の本来の使い方と思います。ただ赤外がない分、バックグラウンドの天の川の星々に派手なギラギラした感じがなくなってもいますね。

続きましてSVBONY CLSフィルター。これはこのように青~青緑、赤~近赤外域を通す特性となっており、赤外域がフルに利用できるのが特徴ですね。そのため連続スペクトル天体である銀河の描写が優れています
88169ec1
M8,20 gain390 4s 32stack svbony cls filter
M8,20 gain390 4s 32stack svbony cls filter
UV/IRカットフィルターと比べると少し星像が甘くなっている気もしますが、ノーフィルターの時ほどではないですね。今回、フィルターを換えるたびにバーティノフマスクでピントを合わせ直しているのですが、おそらくCLSフィルターでは少し赤外側に寄った合わせ方になってるのと、帯域の限定とで少しピンボケ成分が減ったかもですね。完全に想像になってしまいますが、SV550の対物レンズの設計が焦点を一致させている波長とCLSフィルターの通過波長が一致する偶然が生じているかも知れません。

あとHⅡ領域がピンクではなく少しくすんだ赤になるのも、CLSなど光害成分をカットするフィルターの特徴ですね。

さて次はCometBPフィルター。その名の通り彗星の核や尾の波長成分(CN, C2, C3など)を通過させる特性ですが、単純に「デュアル・ナローバンド+紫外域に近い青成分」という風に考えることもできます。
CBP
M8,20 gain390 4s 32stack cometBP filter
これはUV/IRカットフィルターを上回るシャープさ。使用する帯域がかなり限定されることが効いているのでしょうか。像がシャープなため星雲のコントラストも高くきめ細かい階調も出ています。自分は「M20の青を表現したくて」このフィルターを買ったと言っても過言ではないのですが(笑)、その面でも及第点!

続いてQuadBPフィルター(Ⅱ)。当方の電視観望における最重要フィルターとも言うべき「相棒」です。
qbpf_g
いわゆる「デュアル・ナローバンド」。CometBPから青の成分を除いた感じですね。
自分の使っているQuadBPフィルター(Ⅱ)は1000nm付近を中心に近赤外を少し透過する(上のグラフにはその部分は入ってません)のですが現行の(Ⅲ)では赤外を通さない仕様になっています。

M8,20 gain390 4s 32stack quadBP filter(II)
M8,20 gain390 4s 32stack quadBP filter(II) 15°
これはCometBPフィルターよりさらにシャープ! 考えたら当たり前ですが、帯域が限られるほど鋭像になるようです。ただ、その代償と言いますか、M20の青は一番おとなしい表現になりますね。

ちなみに、全てのフィルターでは一番シャープな星像を示したQuadBPフィルターですが、バーティノフでのピント合わせ状況ではこんな感じでした。
ba-thinohu qbp2
これを見ると、青緑と赤の焦点が微妙に一致してない感じもありますが、実際の星像はシャープなので、この程度は問題ないのでしょうね。

さて、比較のため上の5つの画像からM20の部分のみを切り出して並べてみました。
M20hikaku
  ノーフィルター     UV/IRカット     SVBONY CLS        CometBP       QuadBP 

こうやってみると、やはり色表現とそこそこのシャープネスを兼ね備えるUV/IRカットフィルターが一番鑑賞価値が高そうですかね? CometBPもいいのですが、これでHⅡ領域をピンクに表現してくれさえすればなあ・・・

ともあれ、今日は一番星像がシャープだったQuadBPフィルター(Ⅱ)にていくつかの天体を見て行きます。

北アメリカ星雲 gain390 4s 46stack quadBP filter(II)
北アメリカ gain390 4s 46stack quadBP filter(II)これまでF3.1の反射とか使って北アメリカあたりは簡単にあぶり出せていたのですが、F6の4秒露出ではなかなかコントラスト上げられないですね。

網状星雲も濃い部分ならそれなりに。

網状星雲 gain390 4s 62stack quadBP filter(II)
網状星雲 gain390 4s 62stack quadBP filter(II)
ここでこの画像の中心部を800%拡大して星像を見てみました。
中央
スタックしない画像ではだいたい2~3ピクセルの鋭像だったのですが、ライブスタックで合成するとどうしても3~4ピクセルぐらいにはなってしまいますね。これは仕方ないと思います。

続いて画面の右上の隅を800%拡大。
右上
スタックしない画像ではほぼ点に見えたのですが、ライブスタックで暗い部分があぶりだされると、放射状のコマで少し星像が延びているように見えました。今、フラットナ―と焦点面の距離はメーカー指定通りの55mmにしてあるのですが、ひょっとしたらもう少し離してみたら星像の伸びが収まるかもしれないですね(設計値を踏み越えるので破綻する可能性の方が高し 笑)。

画面の中心と右上隅の中間あたりも800%拡大。
中間
ほぼ点と言っていいかもしれませんが、見ようによってはわずかに延びている気も。

この後、画面の4スミを全部チェックしましたが、画面の中心に対して放射状に星像が少しのびる同じような傾向。取りあえずカメラのスケアリングの問題ではなさそうです。

どうなんでしょうね。電視観望の場合このレベルの星像の伸びは全く問題ないのですが、天体写真をやっている人はやはり気にされるのでしょうか。

輝度の高いM27はどのような光学系でも良く写りますね。
M27 gain390 4s 30stack quadBP filter(II)
M27 gain390 4s 30stack quadBP filter(II)
ただ、fl=480mmじゃやっぱりスケールが小さい(笑)

もう薄明も始まって来たのですが、強引にM31
M31 gain390 16s 8stack quadBP filter(II)
M31 gain390 16s 8stack quadBP filter(II)
QuadBPのようなデュアル・ナローバンドを銀河のような連続スペクトル天体に使うのは少し無理があるのですが、16秒まで露出を延ばしますと少し周辺部も出てきました。

さて、空が明るくなり始めたので、SV550のフラットナ―を取り外し眼視仕様にしてOr4mm120倍にて木星、土星、火星、金星などを眺めながら終了。コントラストが非常に良い印象でしたが眼視の検証はまた後日。

とりあえずSV550電視観望に使う場合のメリットは大体わかりました。

メリット

1 イメージサークルが非常に広く4/3”程度のフォーマットでは周辺減光がほとんど発生しない

2 フラットナ―使用で4/3”全面にわたってほぼピンポイントのシャープな星像

3 可視光全体にわたって各周波数の焦点がよく一致している。青ハロも出ない

特に感銘を受けたのが1ですね。フラットを減算することのないお手軽電視観望にて周辺減光が発生するとどうしても画像処理のあぶりだしに制限が生じてしまいます。減光を気にせず画面全体を使えるのは本当に気分の良いものです。今回、検証に使ったM8とM20は画角のほぼ対角線に位置しており、この部分の減光がないからこそ成立した画面レイアウトとも言えます。
2、3は、専用設計のフラットナ―、3枚玉アポの仕事としてはまあ期待通りと言えます。

対して、一般的な使用でのデメリットは特に思いあたりませんでした。この価格でこれだけの内容が実現していることは驚きです。


個人的なデメリット
(特殊な志向に基づいた評価です。設計上の前提を逸脱しているのでSV550の欠点というわけではありません)

1 やはり可視光と近赤外での焦点が一致せず軽微な赤外ピンボケが生じる(しかしアクロマートの赤外ピンボケよりは大幅に少ない)
2 電視観望の露出時間をできれば4秒程度で終わらせたい身には、F6という口径比は暗く感じる
3 fl=480mmはHⅡ領域の電視観望には少し視野が狭い(6cmF5の3枚玉あたりが同等の設計であれば)

というわけで、「天リフ読者レビュー企画」におけるSV550の使用、まずはいろいろなフィルターを使った電視観望の結果について報告させていただきました。まだいくつかテーマがありますので、実施できましたらまた記事にしたいと思います!