前回、SV550鏡筒にいろいろなフィルターを使ったところ、可視光が全帯域にわたって良く補正されている印象でしたので、今回はUV/IRカットフィルターを使っての「可視光フルバンド」による電視観望でそのパフォーマンスを見ようと思います。
SV550、8cmF6鏡筒に専用フラットナ―、ASI294MC、AZ-GTi、ShapCapによる画像処理というシステムは前回と同じです。
どちらも微光星でのライブスタックなしの一枚画像で気流の落ち着いた瞬間を狙ってスクリーンショットしています(ライブスタックすると合成によりシーイングの影響他が加味されて少し星像が膨らみます。また明るい星ではイラジエーションによりこれも膨らみます)。ご覧の通りセンサー上で2~3ピクセル、ASI294MCはピクセル4.6μmですから、星像直径は10μm~15μmといったところでしょうか? 周辺も中心にまったく遜色ないですね!
この「65mm距離」はメーカー設定値とは違いますが、当方環境では全面にわたってフラットな星像が得られたと判断し、この状態で使っていきます。
しかしながら、この距離はメーカー設定値を大幅に逸脱していますので、自分も半信半疑な面があります。もし後発のレビューアーの方が追試験してくだされば、その是非も判明してくるかなと期待しております。
ちなみに「65mm距離」の場合、付属の接眼部回転装置を使うとバックフォーカスがギリギリ不足して、無限遠にピントが出ませんでしたので、回転装置をはずしてフラットナ―をドローチューブに直接ねじ込みんでいます(カメラの回転は鏡筒バンドを緩めて鏡筒全体を回すことでおこないます)。
あと、「65mm距離」での拡大率は実測×1.017でしたので、合成焦点距離は、480×1.017≒488mmとなっている見込みです(SharpCapプレートソルブの設定でこの焦点距離を入力しています)。
さて、UV/IRだと可視光をフルバンドに使用できますので、やはり連続スペクトル天体を狙いたいですね。Gain390、4秒露出にてM51から。
M51 gain390 4s 30stack uvir cut filter
M51 gain390 4s 120stack uvir cut filter
こうやって見ると結構解像してくれてますね。ASI294MCのような4/3”センサーの場合でも、フル画面をパソコンモニターにフル表示した場合、センサー解像度よりモニター解像度が下回っていますので、このように拡大することで細部が見えてきます。銀河のような視直径の小さな天体にはこれが必須となります。
続いて、M101
M101 gain390 4s 40stack uvir cut filter
やはりF6の光学系に4秒露出じゃ無理かな? ということで、Gainを540に上げ、16秒露出。
M101 gain540 16s 124stack uvir cut filter
あ、これなら何とか。しかし、さすが可視光フルバンド。黄色い中心部と青っぽい腕の色彩が表現されてきますね。ただ16秒露出を100スタック以上すると30分以上時間がかかるので、一晩の天体数がかせげなくなるな、とは思います。
で、そうこうしてるうちに夏の銀河関連天体も昇ってきましたので、M17、スタック前の1枚画像。
M17 gain540 16s no stack uvir cut filter
はい、見事に飽和(笑)。Gainを540までに上げてダイナミックレンジが狭くなった上に16秒露出もすると、こういう輝度の高い部分が飛んでしまいます(しかし、Sonyの新しいセンサーではフルウエルが非常に向上しているそうなので、それが天体用CMOSに実装される日が待たれますね)。
さて、少し話が逸れましたが、M17あたりはGain390の4秒露出で十分でしょうか。
M17 gain390 4s 50stack uvir cut filter
そいういや、さそり座の「カラフルタウン」って天体写真で定番の画題になってるけど電視観望ではどうだろうか? Gainを再び540に上げ、16秒露出でトライ!
アンタレス付近 gain540 16s 10stack uvir cut filter
これの上の方に青い反射星雲があるはずなので、少し視野を上に振って見ます。
アンタレス付近の北の方 gain540 16s 15stack uvir cut filter
でもこっちなら? でS字状暗黒星雲。
S字状暗黒星雲 gain390 16s 11stack uvir cut filter
M20の青い反射星雲はどこまで出せるかな? で(中央拡大)。
M20 gain390 4s 106stack uvir cut filter
M16の「創造の柱」はどう来る?
M16 gain390 4s 45stack uvir cut filter
M16 gain390 16s 17stack uvir cut filter
これならわかりますね。しかし星の色がいろいろ見えます。星の色が良く表現されるのも、UV/IRカットフィルターによる可視光フルバンドのメリットですね(デュアル・ナローバンドや赤外利用ではほとんどの星が白く飛んでることが多い)。
北アメリカ星雲もです。
北アメリカ星雲 gain390 16s 11stack uvir cut filter
ペリカン星雲も同様。
ペリカン星雲 gain390 16s 57stack uvir cut filter
しかしここでふと思ったのですが、黄色い星ってこんなにたくさんありましたっけ? ひょっとしてSV550の対物が黄色の波長だけ焦点が離れてて、黄色ピンボケにより黄色が強いスペクトルの星だけが本来の等級より目立つ結果になっているのでは? という疑念が生じましたのでベガを視野に入れ、バーティノフマスクの虹色を見てみます。もし焦点がずれていれば黄色だけ光条が食い違うはずです。
さて、疑念も解消したところで球状星団はどうだろうか?
M13 gain390 16s 34stack uvir cut filter
で、M13を中央拡大すると
無数のアルビレオが集まってクラスターを形成している
といった佇まい! これは可視光フルバンドならではの表現ですよね!
で、銀河の方に戻って
バンビの首飾り gain390 16s 17stack uvir cut filter
バンビの横顔 gain390 16s 30tack uvir cut filter
M31が昇ってきたので、銀河に戻ります。
M31 gain390 16s 61stack uvir cut filter
実は電視観望によるリアルタイム画像処理で、ここまでM31の周辺部を出せたのは初めてなのですよね。これはやはり周辺減光のないSV550鏡筒の視野に依存するところが大きいと思います。ちょっとでも周辺減光がある状態で強調処理をすると、肝心の銀河周辺部より減光の方が目立ってきてしまうのです。
天体写真家の方々が「元画像が素直だと処理がやりやすいよねー」って言われているのはこういうことだったのだな、と素人ながら思い当たった次第。
その勢いのままM33
M33 gain390 16s 70stack uvir cut filter
もう薄明が始まってそうだったけど、大急ぎでNGC7293らせん星雲
NGC7293 gain390 16s 23stack uvir cut filter
明るくなって来たにもかかわらずNGC253に向かいましたが、もうさすがに無理・・・
NGC253 gain390 16s 8stack uvir cut filter
さて、SV550のような3枚玉アポクロマートは可視光全域にわたって色収差を補正するように設計されていますが、紫外域や赤外域に感度をもつCMOSカメラを使う場合、想定外の波長が入ってきますので、これをUV/IRカットフィルターで除去するのが、最も設計思想に沿ったやり方と思います。
そこで、今回はSV550とUV/IRカットフィルターの組み合わせでいろいろな天体を見てきたわけですが、このシステム、どの天体にもそれなりに対応した使用が可能で非常に汎用性が高いと言えますね。さらに、視野内の色彩が豊かに表現されるという面でも優れています。
古典的アクロマートのベストパートナーがデュアル・ナローバンド・フィルターだとすると、SV550のそれはUV/IRカットフィルターである、と言い切ってよいのではないでしょうか?
ただし、UV/IRカットフィルターは水銀灯などの輝線を透過しますので、「光害カット」という性質はありません。ですからSQM18等台のような都会の光害地では、当方記事の画像ほどコントラストが上げられない可能性が高いです。
しかし、当方自宅はSQM20等台(それでも普段は2等星しか見えない)の「中程度光害地」でもあり、それと同等の、少なくとも2等星が見える環境なら、電視観望にて当方記事の内容までフォローできると思われます。
この辺も、今後のリポーターの方々が、どんな条件の場所でどのように使われていくか、非常に多面的な検証がなされると思いますのでとても楽しみです。
当方も、テーマを変えてあと何回か検証して行きます!
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