3Dプリンター用のstlファイルをいろいろ探していると、国立天文台(NAOJ) が「すばる望遠鏡」の模型データを公開しているサイトに行きあたりました。

 (クレジット:国立天文台)
これは架台部分まで模型になっており、しかも可動式で望遠鏡の仰角が変えられるという素晴らしいものです。以前から天文台の大望遠鏡のミニチュアを作りたいと思っていたのですが、ここで公開されているデータを使わせてもらえばそれができるかな? と思い立ち、全部だと大変なので、とりあえず鏡筒部分だけでも作ってみよう、と考えました(データには「精密バージョン」と「シンプルバージョン」がありますが、後者を使用)。

ただ、単なる模型では面白くないので、望遠鏡としても使えるものにしようと思います。

さて、この模型はオリジナルのすばる望遠鏡の約1/110のスケールになっているとの事。そのまま3Dプリントしたいところですが、当方所有のProxima6.0は印刷サイズが130×78×155mmのため、はみ出してしまう部分があります。模型サイズのさらに80%にすると何とか収まるようでしたので、1/110×0.8≒1/140と言うことで、約1/140のスケールにて製作することにしました。
トラス
(光造形式3Dプリンターの「ビルドプレート」に収める必要があります)

スバル望遠鏡は口径8.2mですから、その1/140ということになると口径5.8cm。それですとNewtonyの5cmF4の鏡が入れられそうです(この鏡、実測は径5.3㎝、メッキ面の径5.2㎝の球面鏡)。
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本物のすばる望遠鏡はリッチークレチアン式なのですが、さすがにその踏襲は無理なのでニュートン式で作ることになります。

すばる模型の主鏡セル部分を3Dプリントアウトし、Newtonyの主鏡を入れます。
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鏡は両面テープで合板の円形プレートに貼り付けてあり、バネで突っ張った引きネジで光軸修正する構造です。
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口径が小さいのでこの方法でも充分鏡をホールドすることができます。
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さてこれに連結するトラス部分も3D印刷します。ちなみにこれぐらいの大きさが当方の3Dプリンターで印刷できる最大サイズになります。
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実はトラス部分とアッパーリング部分は、元の模型では別々でしたが、これを連結し、さらに斜鏡部分や接眼部、アリ型などを、FreeCADで追加しました。
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接眼部には36.4mmネジでボーグのヘリコイドSをねじ込んで使うようになっています。

実はこのトラス部分は4作目で、それまでの3つはいろいろなところに印刷の不備が出て失敗しております(笑)
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硬化したレジンは「柔らかくもろい」という、わりかし最悪な性質を持っているので、いろんなとこが破損しやすいのです。あと接眼部や斜鏡ホルダーはデータどおりに印刷されたら部品や光学系組み付け状態で精度が出るはずだったのですが・・・

ところどころ微妙に歪んでいるため、それが累積して光軸が合わない

上の4作目トラスももちろん歪んでいるし、36.4mmのネジはすぐバカになってしまったし、一時は「これ無理なのでは?」と思ったほど(笑)。

止むを得ず、接眼部スケアリング機能の追加と補強部品の導入
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ちょっと遊びでスバル自動車のロゴを入れて見たりもしました。苦肉の策ではありますが、Free CADでこういうオリジナル部品のモデリングができるようになれたのはよかったです。
補強部品3
さて、斜鏡ホルダーの方も、組み付けで光軸合うはず、という前提で調整機構を省略していたのですが、思ったようにはいかず、結局この機構も追加(Newtonyの斜鏡一式を利用)。
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ちなみにNewtonyの斜鏡ホルダーを連結する異径リングもFreeCADで作成しました。
リング
こういう部品、パソコン上のモデリング段階では現物合わせができないので、現物をノギスで計った寸法通りに入力したとしても3Dプリントで仕上がって来たものが合わないことも多いのですよね。
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あれ、ゆるゆるだ、なら0.1mm直径を大きくして・・・とかなるのですが、単純な異径リングでも現物合わせ要素が4カ所くらいあるので、試行錯誤してるとどうしても回数が多くなります。

結局このリングは印刷を8回やりなおしました(笑)。
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まあこの辺は3Dプリンターの使いこなし部分になるのでしょうかね。

ともあれ、現状の鏡筒をZERO経緯台に載せるとこんなかんじ。
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地上の風景を見る限りではなかなかシャープでしたが、こればっかりは天体をみないとわからないですからね。光学性能は今後検証していきたいと思います。

QHY5Ⅲ485Cを使えば電視観望もいけそう。
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CMOSカメラ使用時は直進ヘリコイドを使います。

斜鏡は、20mm、25mm、27mmなどを試用し、現状はタカハシ製の25mm斜鏡に落ち着いています。
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口径52mmなので中央遮蔽は直径比48%と言うことになりますね。筒外焦点が長いのでこれでもギリギリ口径食を起こさないサイズです。

主鏡表面から斜鏡中心までが約104mm、斜鏡から焦点面までが約96mmなので、斜鏡の位置での中心光束が24.96mm、斜鏡が25mmなので光量100%のイメージサークルは∮0.04mm(!)という計算になりますね(笑)。あくまで自分の場合ですが、今までもニュートン式を作るとき中央遮蔽最小化のためこういう設計をすることがしばしばありました。さらに今後、球面収差の状況によっては口径を絞って行くこともあり得ますしね(その時は斜鏡も小径化する)。

しかし、このように斜鏡径がギリギリであったり、筒外焦点が長い設計にも「迷光を拾いにくい」というメリットがあるのですよね。実際、シェードをかけていない開放のトラス鏡筒であるにも関わらず、昼間の使用でも迷光の影響をほとんど感じませんでした。

このように植毛プラを接眼部対面に挟むともう完璧です。その後、斜鏡のコバ塗りもおこなっております。
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(知る人ぞ知る、BORGの「植毛プラ」です)

と言うわけで、久々に晴れているようなので、「ミニすばる」5cmF4球面鏡の光学性能を確かめます。比較対象は7.6cmF3.7、1/11λ放物面鏡のレイメイRXA100です。
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まずはアンタレスを視野に入れて焦点内外像の確認。対象に見えるRXA100に対し、5cmF4は焦点内像が明らかに負修正。まあ球面鏡だから仕方ないですが、これはバーローを入れても同じでした。

続いて月面。ミニすばる5cmF4、ビクセンバローTに賞月観星UWA4mmで100倍。iPhoneでコリメート撮影。
5cmF4月面
実際にはこの画像よりかなり良く見えてましたが・・・いや、それなりに見えてるし文句はないですよ。コントラストはいいし。でもこの後、RXA100で月面見たら感動的なほどとんでもない切れ味で、何倍ものディーテールが見えたのです・・・

続いて土星。今日はシーイングが悪いので、RXA100で気流の良い時には見えるカッシニも確認できません。しかし本体や輪の輪郭がクッキリ出るRXAに対し、5cmF4はどこがピントかよくわからない・・・

うーん・・・

このままじゃあきませんな

どうしよう、焦点内外像が対象になるまで口径を絞って行くか・・・? それとも5cmF4の放物面鏡に換装? いやいやそんな鏡売ってない。自分で5cm球面鏡を修正研磨? 地獄を見そう(笑)

いや、いっそのことRXA100の光学系で一回り大きい「ミニすばる」作る?

とにかく何とかしないと、単なる「一応見える色物望遠鏡」で終わってしまうなあ・・・

とにかく、Fの明るい鏡は放物面鏡でないとダメだ。
とにかく、Fの明るい鏡は放物面鏡でないとダメだ。

大事な事なので2回言いました(笑)

さて、今後この「ミニすばる」どう展開していくのか目が離せない!?(笑)