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僕の祖父は亡くなってもうずいぶんたっていて、今度33回忌をやるくらいなのだけれど、今、手元にその祖父のバイオリンがある。

祖父は戦前から戦中にかけて舞鶴の海軍工廠に勤めていて、それ以前の時代のものだと思うが、どのような経緯で入手したのかはまったくわからない。

子供のときに一度見たきりのそのバイオリンのことをしばらく前に思い出し、探してみたところ、押入れの中ですぐに見つかった。ボディのf字孔から内側を覗くと、「 MASAKICHI SUZUKI No.5 」というロゴがあり、国産バイオリンの草分けである「鈴木バイオリン」製であることがわかる。

このNo.5は、明治40年(1907)から昭和8年(1933)にかけて製造・販売されていたもので、これは祖父の年齢で言うと2歳から28歳にあたる時代だ。明治40年当時の鈴木バイオリンのラインナップは最も廉価版のNo.1(5円)から最高級のNo.13(40円)まであり、No.5(10円)は「中級モデル」というになろうか。

その後、No.5は祖父が20代となる昭和初期には24円まで値段が上がる。当時の生活水準を考えるとずいぶん高価な買い物だったのではないかと思う。あるいは誰かから譲り受けた可能性もある。

さて、少なくとも80年、場合によっては100年になろうかという「オールド楽器」である。当然、ケースはぼろぼろだったので新品を買い、弓の毛はすべて切れていたので楽器店で張ってもらった。さらに、糸巻きが磨耗していてうまく止まらず、どうやってもチューニングが合わない。結局、糸巻きも交換し、1弦のファインチューナーや「あご当て」も追加し、何とか演奏可能な状態まで調整した。

糸巻きの磨耗だが、チョークなどの滑り止めを使わず、毎回力任せにねじ込んで止めるとこのような状態になる。これから考えると祖父はあまり楽器の扱いに詳しくなく、昔のことだから教えてくれる人も回りにいなかったのではないだろうか。彼が弾くのを見たことはなく、バイオリンに関する話もしたことがない。ひょっとしたら弾けなかったんじゃないかと思うこともある。

とは言うものの、孫の僕も弾けないので(笑)、あまり言えないのである。
ついでに、祖父からはひ孫にあたる僕の子供たちも取り組む気配はない。

祖父のバイオリンは、誰か弾ける人が鳴らしてくれるのを今でも待っている。