五藤光学テレパック60-ALです。
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6㎝F15の屈折経緯台ですが、もう50年以上前の望遠鏡になります。
使用説明書

どういった経緯の望遠鏡かというとまぁしぃさんのブログのこの記事に詳しいです。

理振法改正の規格を先読みして作られたものの、結局規格が違っていて学校用途には使えず、一般向けに売り出したもののあまり売れなかった、ということらしいですね。この他の記事でもテレパック60-ALについて様々な考察がなされており、大変勉強になりました!

さて、現物のテレパックは、非常に良く見える望遠鏡でした。

3つアイピースが付属していますが、
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全て素晴らしい結像を示し、木星や月の輪郭等にも色にじみが感じられません。逆にNikonのルーペアイピース(スタインハイル3枚玉)で見るとわずかに色収差が出ているように感じました。ハイゲンスの使用を前提に対物レンズの設計がなされているかは不明ですが、少なくとも手元にあるテレパック60-ALでは「アクロマート+ハイゲンス」でトータルの色収差を減らす結果が生じているとは思います。

さて、地上の碍子に反射した太陽光や恒星では当たり前のようにエアリーディスクやジフラクションリングが確認でき、木星の模様の濃淡や大赤斑も見えました。
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ただ、「素通しのパイプを覗いたようなコントラスト」を示す5㎝F17ハーシェル・ニュートンと比較するとどうしてもコントラストで一歩譲るのが気になりました(とは言うものの、特にコントラストが悪いというわけではなく、「普通」のレベル)。結像が優れているだけにこの点が惜しいわけで、ここは何とかしたいところですね。

まず、レンズが汚れていてコントラストを落としているかも知れないのでクリーニングしようと思いましたが、フードやレンズセルがリベット止めされており、レンズ取り外しさえ拒否する仕様(笑)。
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このままではあまりにも発展性がないのでサジモトさん(既にテレパック50-ALをレストアされています)に教えてもらった方法にてリベットをドリルで飛ばし
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レンズも外しましたが、あまり汚れてなかったですね。
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この後一応レンズを洗い(ノンコートなのでこれが可能)、コバを黒く塗っています。
このレンズは第2面と3面が同じRの密着型のようです。この形式だと錫箔をはさんだ分離型より性能は落ちるらしいのですが、テレパックではコストダウンのためシンプルなこの方式を採用したのかも知れません。ちなみに使用説明書には
使用説明書2
とあったので現物と矛盾しており、この点は少々謎ではあります(笑)。

リベットを飛ばした後はプラスチック部分にタップを立ててねじ止め。
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これで対物レンズ・レンズセルがリムーバブルになりました。

これで組付けて再度ハーシェル・ニュートンと比較しましたが、レンズを洗った程度ではコントラスト向上の効果が感じられず、やはり「普通」レベル。接眼部から鏡筒内をのぞき込むと何カ所か光っています。この辺はコストダウンによる鏡筒の簡素化によるものでしょうか。

それなら迷光対策を徹底的にやってみようということで、

筒先φ60㎜絞り
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対物レンズの3㎝後方にφ58㎜絞り

(鏡筒内にノーマルの絞り2カ所)

ドローチューブ先端にφ20㎜絞り
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(ドローチューブ内にノーマルの絞り1カ所)

アイピースアダプタにφ14㎜絞り
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(天頂プリズム)

(アイピース)

という順番に絞りを設け、接眼部から見た時の「鏡筒内の反射」を完全に払拭いたしました。イメージサークルは1°強ですが、付属アイピース最低倍率36倍の実視界が1.1°なので全く問題なしですね。

ちなみに、絞りは全て3Dプリンターで印刷しています。
フォーカサー内絞り
迷光対策後「テレパック60-AL+付属H25㎜」で見た地上風景のコントラストを「5㎝F17ハーシェル・ニュートン+ラベンデュラ30㎜」と比較したところ・・・
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・・・うーん、やっぱりコントラストはわずかに負けている。あ、そうか、これはもうアイピースの違いかな? で、テレパックの方にNikonのルーペアイピースを付けてみると、ほぼハーシェル・ニュートンと同程度のコントラストが得られました。何とかハーシェル・ニュートンのレベルまでは持ってこられたようです。

うーん、しかしテレパックのアクロマートにルーペアイピースだとわずかに色が出るんですよね。コントラストを取るか色消しを取るか・・・この辺、高レベルのトレードオフとなった感が(笑)。ま、地上風景と違って天体の場合はテレパックとハーシェルニュートンのコントラストの違いはほとんどわからないし、やっぱり付属のハイゲンスで行くか。

と言うわけで、夜になって木星を付属アイピースにて見てみると、迷光対策前より模様が濃く感じられたのはもちろん、彩度も増している気が! 大赤斑もわずかにオレンジ色に見えたし、迷光対策はそれなりの効果があったと言えますね。

例によってちゃんと写せてないですけど、迷光対策後の月面コリメート画像はこんな感じ
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      左:H25mm 38倍               右:H7㎜129倍

眼視による月面は、細かいクレーターや山脈の荒々しさ、海の部分の階調などが素晴らしいですね。これ、CZJのE50/540クラスの超絶は別格として、C50/540あたりとは十分戦えるのじゃないかな? いや、望遠鏡に勝ち負け持ち込むなんて最低ですけど(笑)
いずれにせよ、この感じなら月齢が大きくなってきた時の月面キラキラにも大きな期待が持てます!


さて、少し話は変わって、テレパックの架台ですが、「ボルトでテンションを調整し、フリーストップと微動を両立させる」という前提のようですが、フリーストップがスムースにできるテンションでは微動が効かないし、微動を効かせるとフリーストップが重いし、の「あぶはち取らず」の状態でした。

これはもう思い切ってクランプを設けた方がよさそうだったので、各所の干渉を避けるやり方を模索しつつ、
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垂直の方にはノブスター付きの長ボルト、水平の方にはL字型のボルトを使うことで落ち着きました。これにより、架台をがっちり固定できるようになりましたので、アイピース交換等で架台が動いてしまうことがなくなりました。

ちなみに微動ハンドルが片方折れてましたので、
テレパック微動ハンドル
似たような形のものを大きめにモデリングして3Dプリントし、取り付けています。
微動ハンドル
奥の垂直の微動ハンドルは付属品、手前の水平の方の微動ハンドルが3Dプリントしたものです。
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テレパック架台の微動はタンジェントの押しバネ式ですが、回転が少し重いので、やはりハンドルは大きいほうが回しやすいですね。

あとあれかなー、垂直クランプ緩めると仰角によって望遠鏡が勝手に動くのでカウンターウエイトつけたいかなー? しかしせっかく望遠鏡一式が軽いのにあまり重くしたくはないんで、どうしようかというところ。あ、言い忘れてましたが、テレパック60-ALは望遠鏡一式重量が驚きの4.8kg! 片手で持ってポンと出せる手軽さがあります。

ハンドルのレイアウトとしては垂直微動を左手、水平微動を右手で持ってX-Yに動かせるので、割かし使いやすいです。
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こうやって見ると本当に望遠鏡らしい望遠鏡ですね。


テレパック60-ALは50年前の新品価格が26,000円。当時の物価を考えると安いんだか高いんだかよくわかりませんが、随所にコストダウンの跡は感じられますね。しかし、一式を手にした後のアイテムの買い足しなどは全く必要なく、デフォルト状態でも(架台の若干の使いにくさはありますが)眼視における6㎝屈折経緯台の世界が完全に網羅できるようにセットアップされています。これは学校備品として企画されたこともあるのでしょうが、使う立場に立ったパッケージングと思いました。まさにテレパックの「パック」たる所以でしょうか。

何より、対物1群2枚、接眼2群2枚、トータルわずか3群4枚に過ぎない低コストの光学エレメンツで、相当に高レベルの光学性能を得ているところに、コストダウンを強いられながらも「ここだけは譲れん!」みたいに最低限の性能に妥協しなかった五藤光学の矜持みたいなものを感じますね。ハイゲンスは付属アイピースを安価に済ませるための低コスト要員ではなく、対物の性能を最大限に引き出すための必然という哲学!・・・いやそこまでは考えてない?(笑)

と言うわけで、最後に一言。

アクロマート+ハイゲンス、最高!