テレパック60-ALには普段「天頂プリズム」を使っているのですが、これを使うと「裏像」(正立・左右逆転像)になるのが個人的には不満でした(その他にもプリズムを光路内に入れることでガラスブロックによる収差が発生しますが、こちらはF15みたいな暗い光学系では問題になりません)。

そこで便利なのが、光路を90°曲げつつ正立像を得る正立プリズムです。これはMAKSYに付属のものですね。
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見た目には天頂プリズムと同じですが、「1回反射で裏像になる」直角二等辺三角形のプリズムではなく、アミチプリズムという「2回反射で逆転像を得る」プリズムが入っており、これがケプラー式やニュートン式の像を正立にしてくれます。

(中央精機株式会社のサイトより)
アミチプリズムは屋根状の90°に配された反射面を光路内に持つのですが、この屋根の頂点を「ダハの稜線」と呼び稜線の左右で像を一致させるのが精度的に難しいため、通常は像質の劣化を伴うことになります(ちなみに、ここを高精度に追い込んで稜線の影響を廃した高価なアミチプリズムもあるらしいです)。

実際に正立プリズムと天頂プリズムの像を見比べてみても、低倍率でも前者の方が月面キラキラの表現が劣るのが観察されました

なら素直に天頂プリズムを使い続ければいいわけですが、個人的に裏像が好きでないので、正立像で、なおかつ像質の劣化のないイメージを求めることになります。

アミチプリズムでも光軸をシフトすることでダハの稜線を回避することができます。市販品ではカサイ&ビノテクノの「EZP」がそれですね。EZPではダハの稜線を完全に回避したうえでイメージサークルを確保するために大型のアミチプリズムが使われています。

しかし大型のプリズムは高価なので、上にあげたMAKSY用の正立プリズムのような小径のアミチプリズムを改造することで、「プアマンズEZP」を作れないかというのか今回の企画です(笑)。

正立プリズムですが、これらは左がMAKSY60付属のもの、右がMAKSY GO 60付属のものです。
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MAKSY60の方はバレル・スリーブが分解できるのですが、後発のMAKSY GO 60 ではハウジングと一体になっていてコストダウンされていますね。今回は左の分解できる方を使います。

このアミチプリズムの開口部はφ20㎜強ですので、φ10㎜の光束を使うとすれば接眼側を真ん中から左、対物側を真ん中から右(もちろん逆も可)と独立できますので、ダハの稜線を完全に回避できます。しかし、プリズム位置での光束がφ10㎜にしかないとイメージサークルが非常に狭くなってしまいます。そこで今回の作例ではシフト量を6㎜に抑え、光束をφ14㎜程度確保、

視野中心だけダハの稜線の影響を廃し、視野周辺は像の悪化を我慢してイメージサークルを温存する

という小径のプリズムを使う場合の折衷案をとります。

少しコンセプトは違いますが、これはすでにnaka-maさんが行われてますね。

この作例は高倍率31.7㎜、低倍率2インチと用途に応じた切り替えもできるようになっている優れものです!

しかし、当方のテレパック6㎝F15では2インチ広視界の用途はないので、計画は31.7㎜専用として進めます。

まず、プリズムの三角ハウジングを収める部品を接眼側と対物側の中心が6㎜横にシフトするようにモデリング。
ezp
これを3Dプリント
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実は上の1回目のと2回目のはいろいろ寸法どりとか失敗してて(笑)、3個目のがこれ。
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いつものことですが画面上のモデリングでは現物の問題点が把握できず、結局現物合わせで作り直してます(笑)。
光軸シフトはわずか6㎜ですが、中心視野はダハの稜線を回避できることになるはずです。
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この部品は、アイピースバレル・スリーブを外したMAKSYの正立プリズムをハウジングごとはめ込むようになっていて、こんな感じに取りつきます。
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で、この組付け状態で精度が出るはずだったのですが、プリズムが対物レンズの方を微妙に向いてなく、結局紙をはさむことでプリズムの傾きを調節することになりました。ここでも現物合わせ(笑)。
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テレパックの24.5mmADを外し、ドローチューブに直接取り付けます。
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さらにプリズムに合わせて対物レンズの光軸を調整する必要もありましたので、対物レンズの傾きがこのプリズム使用時に特化。随時の差し替えはできなくなってしまいました。まあ、付けっぱなしで問題ないわけですが。

それでは、まずはテレパック付属のH-25mmにて
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36倍実視界1.1°となります。
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おお、正立(当たり前)、そして視野中心部の強烈な解像度が戻ってきました! しかし良像範囲は視野の30%強くらいでしょうかね。実視界1.1°の光量は確保されているようです(この後実視界1.2°のCZJ25-Hではわずかに周辺減光が出ました)。イメージサークルは約1.1°、ダハの影響のない視界も0.3°強くらいになるでしょうか? 

同じくテレパック付属のH-7㎜では?
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129倍0.3°となります。
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あんまりきれいに撮れてないですけど、ものすごいシャープです。高倍率用途でのダハの稜線回避は成功したと言っていいでしょうか。

ちなみに碍子に反射した太陽光のエアリーディスクとディフラクションリングも良く見えていました。
エアリーディスク
しかし、こういうのコリメートじゃうまく撮れないんですよね(笑)

で、当然ライカズームも取り付けるわけです。
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左側17.8㎜側(51倍)、右側8.9㎜側(101倍)となります。
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ともにさすがのコントラストでした。

ライカズームの高倍率側と同じような倍率として100倍のHM-9mmを当ててみましたが
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解像度では負けてないのですが、やはりコントラストは明らかに落ちますね。

と言うわけで。MAKSYの正立プリズムを使いダハの稜線を回避する改造を行ってみましたが、中心解像度としてはかなり良好な結果を得ることができました。最終的にはイメージサークル1.1°、中心部は非常にシャープ、H-25mm使用時では視野の30%から周辺は像質が落ちる感じです。天頂プリズムの時はもう少し良像範囲が広かったように思うので、これはダハの稜線の影響かも知れません。しかしプリズムとは関係ない単なる周辺像悪化かもしれず、地上風景ではその辺はよくわかりませんでした。

というわけで暗くなってきたので木星を見て確かめます。
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まずH-25㎜、36倍、実視界1.1°で木星を視野のあちこちに移動させてみると、やはり視野の30%くらいはすごくシャープなのですが、そこから周辺になると倍率の色収差みたいなものが出たり像が2重? みたいな感じになったり多彩な崩れ方をします。やっぱりこれはダハの稜線の影響と見るのが妥当かなと思いました。

続いてH-12.5㎜、72倍、0.6°では最周辺が崩れるけど視野の80%はシャープですね。H-7㎜、129倍0.3°では見かけ視界40°の全面にわたってシャープ(ただし最周辺はすこしデフォーカスする必要あり)でした。像質悪化のない範囲は少なくとも0.3°強はある感じでしょうか。

とすると、惑星用としては全く問題ないスペックですね。特に今日はH-7mm129倍で薄明中にもかかわらず大赤斑が見えていました。群青色のバックに灰色の縞模様と薄いオレンジの縞模様、そしてやや濃いオレンジの大赤斑と相変わらず彩度が高く非常に見ごたえがありました。今回の作例ではわずか6㎜のシフトでしたが、正立プリズムを惑星観望用にカスタマイズする方法としては十分実用性があるものと思います。

しかし、0.3°では月の全面をカバーできないので、テレパック60-ALの最大の目的である「月面キラキラ」がどんな感じに見えるかは微妙なところですね。月が大きくなってきたらその辺を評価したいと思います。良像範囲0.3°の「光軸シフト正立プリズム」で意外と十分なのか、さらに広い良像範囲とイメージサークルの両立を求めて結局EMS的な正立ミラーを製作しなければいけなくなるのか・・・さあ、光軸シフト正立プリズムの、明日はどっちだ!?