天体の淡い部分の構造を観察しようとする場合、その部分からわずかに発せられた光子をできるだけの大口径か長時間露出で累積し、総量を増やしていくしかないわけですが、アマチュアでは大口径の稼働に限界がある以上どうしても長時間露出に頼ることになります。そこで天体写真家の皆様は「撮り増し」などで各対象天体の総露出時間を蓄積しておられるのですが、遠征、極軸合わせ、光軸確認、ダーク・フラットの取得、導入・ピント確認、撮影時の監視、片づけ、帰宅、撮影後の良フレームの選別、画像処理・・・等々、たいへんな手間・技術・時間を必要とする内容になっています。

もちろん、そういった「アスリート的ストイックな運用」で問題解決していく充実感や情報交換の輪が拡がっていく素晴らしさがあるのですが、ライトな眼視派である自分にはこれまで全く縁のない別世界の頂でした。しかし、今回のSeestar取得で露出時間蓄積に本来必要であったろう、手間・技術・時間などのコストをほとんどかけず、Seestar本体とスマホだけでそれがおこなえる状況が生まれたのです。
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具体的にはSeestarのPLAN機能を使い、自分が寝ている間等に画像を撮影して蓄積、これを数日間おこなった結果をスタックすることで1天体当たり数時間の合計露出時間を得ることが可能になっています。これは個人的には全く未踏の部分であり、自分がそんな運用を始めるとはついこの間まで思っても見ませんでした。やはりツールによってスタイルは変わって来るんですね。

さて、その実際は3月19~20、20~21、21~22、22~23日の4夜にわたって行われました。この4夜はいずれも透明度がかなり悪く、夜半には月もある悪条件(そしてロケーションは3等星見えるか見えないかくらいの光害地)でしたが、一晩中晴れたのでこの実験が可能でした。

SeestarS30は4夜にわたって完全徹夜したことになりますが、自分はPLANを作り、S30を自宅ベランダに置いてスイッチ入れスマホで数タップの操作をしただけで、だいたい日付が変わる前には寝てたので手間はミニマム、食事したり入浴したりテレビ見たりギター練習したりなど、普通の日常生活を送りながらの完全なる「ながら撮影」でした(笑)。

同一天体の画像は日が変わってもS30本体の同じフォルダーに保存され続けて行くため、撮影終了後スマホのアプリ上で撮影日をまたいだスタックをすることができます。今回は各天体につき500~1000枚の1枚画像をスタックすることになりましたが、その所要時間は30分~1時間ほど。少し時間がかかると言えばかかります。

さてその結果、まずはミルクポット。238分、約4時間の露出、左はスタックのみ、右はAIデノイズをかけて明るさを上げコントラスト強調したものです。
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もう西に低い条件だったこともありますが、こういう淡い対象は少々露出時間を延ばした程度ではやっぱり厳しいですね。Seestarのフィルターはおそらく「ZWO DuoBand Filter」と思われるデュアル・ナローバンドなのですがもう少し半値幅の狭い「Dual BP Filter」あたりを筒先に付けて使えばもっとコントラストを上げられるかも知れません。この辺は今後の懸案事項となるでしょうか。

次にトールの兜。403分、約6時間余り。明るさとコントラストを少し強調し、右は中央拡大。
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これも周りに拡がっているであろう淡い部分の表現は厳しい印象。

しし座トリプレット、387分、約6時間あまり。AIデノイズなしのスタック画像と各銀河の拡大。
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さすがにこれだけ露出するとAIデノイズかけなくてもノイズは目立たないし、各銀河の構造も出てきますね。正直、fl=150㎜でここまで解像度が得られると思っていませんでしたので少し驚きました。

蛇足ながら、これ古田俊正さんの「写真で見る小宇宙」と同じぐらいの画質なんですよね。「エスサンマルで見る小宇宙」のシリーズが作れるかも?!

M101、262分、4時間余り、AIデノイズなしのスタック画像と中央拡大。
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対象天体を画面中央に指定しているにもかかわらずスタック後は視野の中心から外れる謎の現象(おそらく経緯台二軸追尾による視野回転を何とかしようとした結果?)が起こっていますが、写り自体は自然(天体写真に自然の基準もへったくれもないとは思いますが)と言うか、個人的に好きな芸風(?)の写り方です。

さて、PLAN機能を生かしたSeestarS30の露出時間蓄積、数時間程度の露出では輝線星雲の淡い部分や分子雲を表現するには至りませんでしたが、銀河においてはかなりのパフォーマンスを発揮することがわかりました。空の暗い条件のよい環境でおこなえばもっと写ったかもしれませんが、光害地の自宅であんまり難しいこと考えずに運用できるのがSeestarのメリットと考えているため、悪条件を乗り越えてのこの結果にはそこそこ満足しています。

現状、改善されたらいいな、と思っているのは

①近赤外感度の高いIMX662を使っているにもかかわらず赤外域がカットされるフィルターしか内蔵されてないので素通しフィルターの選択肢が欲しい(筒先IR640pro等との併用)

②露出時間が10、20、30秒の3段階しかないのでスタック前の画像枚数が多くなり本体記憶容量を食う。せめて2分、できれば5分ほど露出したい。

③対象天体の南中前後で追尾が不安定になり(?)星が流れて画像がスタックできず時間が無駄になる

④周辺星像の崩れが非対称(以前の記事で既出ですが)


などです。①④はともかく、②③はソフト的に何とかなると思うので今後、アプリのバージョンアップに期待したいですね!

いずれにせよ、今後もSeestarS30の潜在能力を掘り起こして参ります!!