電視観望に興味がある人も増えてきたと思うのですが、やはり、「電視観望ってどこまで見られるのかな?」というのが一番の疑問だと思います。今回はそんな皆さんの疑問にお答えする企画です。

SV305を使った安価な機材による電視観望でもそれなりのパフォーマンスがあり、このレベルのCMOSカメラを使ったエントリー向けの記事も考えたのですが、Samさんのブログに「電視観望に挑戦してみよう」という同じテーマの素晴らしい記事がありますので、その次のレベルと言いますか、もうちょっとコストをかけた「中級者向け」の機材だと光害地(限界等級2等程度)で、どれぐらいまで見られるか、という方向性でお伝えしようと思います。

自分が使っているのは、「14㎝シュミットニュートン改F3.1 / ASI294MC / QBPフィルター / AZ-GTi」のシステムです。14㎝鏡筒が中古34000円(たぶんもっと安く買える場合もあり)なのですが、それを合わせて総額20万弱くらい(パソコン除く)だと思います。
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このシステムの要は何といっても、ZWOのCMOSカメラ、ASI294MCでしょう!
これだけで約10万のコストがかかりますが、センサー面積が、19.1x13.0mm(フルサイズの半分)と、この価格帯としては広く、素子サイズも4.6μmと大きいため高感度でもあり、現状では電視観望に最適、と言い切ってもいいパフォーマンスと思われます。

例えば、SV305などセンサー面積の狭い(5.9x3.3mm)CMOSカメラでは、画角が狭くなるため焦点距離が200mmを超えるとAZ-GTiでの自動導入が成立しにくくなり、時短要素を損ないます。

自動導入の手軽さをキープしたまま、画質向上のための長焦点化やラージフォーマット化を意識すると、次のグレードアップはASI294MCのようなセンサー面積の広いものが必要になります。
画角も広くなることで、fl=400mm~600mmくらいまでの焦点距離がAZ-GTiで自動導入可能となります。

加えて、QBPフィルター、これは光害地での運用に欠かせない上、おそらく赤外域を少し通過しているため、連続スペクトルの天体の表現力がプラスアルファされており(ただし、これらは当方の見解。メーカーではそうは言ってません)現状で最強の汎用性を示すフィルターです(ただし、赤外域の特性を生かすにはアクロマートでは不足で、屈折アポ系か反射系の対物が必要になります)。
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さて、これらによる肝心のパフォーマンスですが、
まず、M31、8秒露出、40スタック
m31 8s40stack
ここではくわしく述べませんが、SharpCapというソフト(無料版もあり 使い方はSamさんの「電視観望のためのSharpCapの使い方」にて)の「LiveStack」という機能で、8秒露出の1枚画像を40枚合成したものです。

「LiveStack」は1枚分の露出を終えるごと(上のM31では8秒)にリアルタイムで合成を行ってくれるので、その間にカラーバランスや星雲の強調処理を行いながら待つことができ、露出完了と同時に画像処理も完成しているという、究極の時間節約を提供してくれます。

もちろん、昨今のアマチュア天体写真家による、天文台の写真かと思うようなすさまじい画質には及びもつきませんが、8秒×40=320秒、ものの5分ほどでこの画像が得られるのは電視観望の大きなメリットと言えるでしょう。

続いて、M33、8秒、39スタック
m33 8s
QBPフィルターはデュアル・ナローバンドではありますが、スタック枚数を増やしたり、多めに露出をかけてやることで、連続スペクトル天体である小宇宙(銀河)でもこのようにそこそこの表現を見せてくれます。
M51、8秒、214スタック(中央拡大 センサー面積が広いASI294MCではそこそこのトリミングにも耐えてくれます)
m51qbp8s2kakudai
M101、16秒、38スタック
m101 16s 38stack
また、色が青緑になってしまいますが、M45の反射星雲もそれなりに表現してくれます。
8秒、45スタック。
m45 8s45stack
M20の反射星雲も同様。8秒、32スタック。
m20 8s 32stack
(この反射星雲の「青」の表現は、新しく発売されたサイトロンCBPフィルターがQBPよりも
良さそうだ、というのがSamさんのブログで報告されています)


銀河の中の暗黒星雲なんかも背景になる恒星が「連続スペクトル」なのですが、これもまずまずの表現。
バンビの横顔、8秒、20スタック。
banbi 8s 20stack
S字状暗黒星雲”スネーク”8秒、40スタック。
s 8s 45stack
でもやはり、得意とするのはHαを発するHⅡ領域でしょう。

ばら星雲、8秒、49スタック
bara8s
カリフォルニア星雲、8秒、29スタック
kari
馬頭星雲・燃える木、8秒、36スタック
batoiu8s
まが玉星雲、8秒、37スタック。
magatama 8S
北アメリカ、8秒、43スタック。
kita 8s 43stack
ペリカン、8秒、42スタック。
perikan 8s 42stack
サドル付近、8秒、30スタック
sadrr 8s 30stack
三日月星雲、8秒、24スタック。
mikaduki 8s 24stack
M8、8秒、23スタック。
m8 8s 23stack
M17、8秒、16スタック。
m17 8s 16stack
M16、8秒、32スタック。
m16 8s 32stack
さて、もっともデュアル、ナローバンドの本領発揮とも言えるのが、OⅢとHαが入り乱れるような対象ですね。

M42、2秒、81スタックはまあ普通として、
M42 2s
M27、8秒、30スタックや、
m27 8s 30stack
網状星雲、8秒、43スタック
ami 8s 43stack
同じく網状星雲、8秒、43スタックあたりでは
ami 8s 48stack
色の対比が非常に美しいです。

いかがでしょうか。先にも申し上げました通り、この程度の画質では純然たる「天体写真」に到底及ぶものではありません。電視観望最大のアドバンテージは、このレベルの画質なら数分で得られるので多数の天体を次々と見ていけるという時短要素にあります。

電視観望で天文を始めた人(今後はあり得る)がさらなる画質を求めて天体写真分野に進出するもよし、

眼視派の人が口径によって定まる「眼視での限界等級」を突破しようとするのもよし、

数十時間の露出とさらにそれに匹敵する画像処理時間に疲れた天体写真家が、電視観望で一息入れるもよし、

ソーシャルディスタンスが保てる観望会の切り札とするもよし、

これからの電視観望はますますバリエーションが増えていくと思われます。

さて、あなたはどのように電視観望を楽しみますか?